ホラーではありません。恐怖を正面に据えて、「ほら怖いでしょ?」と作者が語りかけてくるような作品ではありません。キング以降のモダンホラーとは、対極にあるのでしょう。伏線、登場人物の内面描写、謎解き、クライマックスといった約束事がないので、肩すかしにあう読者もいると思います。
<br />ところが、なかなか面白いのです。
<br />本作は幻想を語っています。たくさんの謎も提示されますが、どれも未解決のまま、放っておかれます。
<br />京都の夜、さびれた古道具屋、血縁の謎、ミステリアスな女、竹薮に囲まれた屋敷、琵琶湖疎水。想像力をかき立てる小道具は揃っています。
<br />連作ですが直接の関連はなく、次章を読む度「この古道具屋って?」と、物語の背景を想像させられます。
<br />本書は、とにかく半分だけ出して、あとは想像しなさいという小説です。
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<br />そして本作は、若者が主人公の青春小説です。
<br />本作は、若者が道に迷い、誰かと出会い、夢のように時間が過ぎたエピソードを描いています。
<br />幻想として描かれてはいますが、描かれている感情って、結構普遍的なので、本作は面白いのだと思います。
<br />って、ことは幻想小説でもありますが、青春小説でもありますね。(随分屈折した方のです・・・)
幻想怪奇譚というジャンルであるのにミステリ的な要素を期待しすぎて読み始めたわたしが間違っていたと気付いたのは第二編の「果実の中の龍」に入ってから、でした。
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<br />第一編の「きつねのはなし」はそこそこ読めて、「骨董屋」を狂言回し的にプロットして展開していく・・・おっ面白そうじゃないですかと感じたのですが、伏線があって何か一つ(複数でもよいのですが)の謎解きや筋に収斂していく、という展開ではなく、それぞれのエピソードが「ゆるく」繋がって、物語の流れとして何となく「怪奇譚」。何せ「幻想」ですので。
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<br />ん?これは前の話(後の話)とどう繋がるの?と思っても微妙に繋がらなかったり、著者が終始読者を幻惑するような、そんな本。こういう「ユルさ」を楽しんで、かつ「放っておかれ感」がお好きな方なら楽しめるのかも。ぼくの趣味ではないです。
京都という舞台といくつかのキーワードを軸にして、時代や設定、人物を変えながらも巧みにリンクしていく四篇は、果実の中の龍で先輩が言っていた“神秘的な糸”が張り巡らされているよう。深読みしすぎたのか、伏線かと思っていたら以後全く触れられない箇所もありましたが、逆に意外なところが結び付いていたり、先へ先へ読みたくなる作品です。<br />読後感はまさしくきつねにつままれたよう。恐怖と言うよりもう少し毒気の無い、奇妙とか不可思議と言ったほうがしっくりくるような、月夜にひっそり読みたくなるような一冊です。