本書はどの話も魅力的で、この一冊で喜怒哀楽を味わえます。邦訳もよくできていて、ぜひ一読をおすすめしたいです。また、原書と対照させることで、英語の勉強にもなるでしょう。この点を踏まえた上で、本書には誤訳と思われる箇所が散見されるため、これについて述べたいと思います。該当箇所を一つだけ挙げますと、邦訳の24頁の終わりから5行目のところで、以下のようになっています。
<br />
<br />「いきなり吹いてきた疾風に舞う落葉のように忍び笑いが列の中を進んでいった。」
<br />
<br /> これに対し、原文は以下のようになっています(5頁)。
<br />
<br />"snickers moved along the lines like rustling leaves before an errant gust of wind"
<br />
<br /> ここは、疾風が押し寄せる前の微妙な木々のせせらぎを表しているわけで、落葉が舞っているわけではありません。むしろ、葉っぱは木にくっついたままの状態です。「嵐の前の静けさ」というか、「嵐の前の仄かな騒めき」とでも表現すればいいでしょうか。このようなニュアンスと邦訳とでは、意味がかけ離れています。
<br /> このように、誤訳と思われる箇所がいくつかありますが、基本的に好著・好訳ですので、今後改訂作業を経てさらに良い本に仕上げていただきたいと思います。
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
それぞれのストーリーは共通のテーマに沿って分類、層立てされている。動物にまつわるものから始まり、家族、戦争、愛、そして死にまで至る内容は、それぞれのストーリーを仕上げた個人は別人ではあれ、人生において起こりうるであろう様々なイベントを追体験するかのように構成されている。
<br />その長さは見開きで2、4ページ分くらいのものがほとんど。まれに長いものもあれば1ページだけの短いものもある。美談の類の、いわゆる「良い話」もあれば、気まずい話題、惨めな話もある。喜劇もあればエッセイもあると、非常にバリエーションに飛んでいる。
<br />また、それはアメリカ人、その全体としての代表や政府機関としての声、精神ではなく、アメリカ人自身の声、精神としても受け取れるものなのかもしれない。そしてそれは、Web2.0的文化で解釈するならば、当人達は決してそれを意識しているわけではないのだろうけれども、アメリカ人、もしくはその精神性に対する自分探しと解釈できるのかもしれない。
<br />
<br />1冊で2通りの楽しみ方ができる非常に稀有な本と言える。
すごく面白い話とそうでもなかった話と極端だった。ただ、短編集なので分厚い割にはすらすら読めたし、「次はどんな話だ?」なんて期待を持って読むことが出来た。不思議なことをよく経験する私としては、読んだ後の感想は「この世の中に絶対科学で証明できないことが存在する」という確信だった。