非常に難解な暗号技術について、その必要となった歴史的な背景や、
<br />関わった人物のひととなりなどを織り交ぜながら、実に面白く描いてくれる。
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<br />面白いだけでなく、この本で得られる知識は多い。
<br />第二次世界大戦は言うに及ばず、多くの世界史の重要な事件の背後に
<br />「暗号解読」の可否が影響を与えいると言う事実は、歴史の見方も変えてくれる。
<br />また、暗号作成者とそれを解読しようと試みる者達の競争なのであるが、
<br />これまでの人類の歴史では解読者達の圧勝であることは、
<br />我々にとっては意外な事実なのかもしれない。
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<br />現在もインターネット通信で多く使われる「DES」の暗号化アルゴリズムについて
<br />別の本の解説読んだ際に「よくもまあ、ここまで複雑な計算を。。」と感じただけで、
<br />その複雑さの「必要性」まで理解できなかったが、この本でようやく理解できた。
<br />加えて、DES暗号の鍵長が、米国の政府機関NSAの圧力で
<br />わざわざ短くなるように(解読しやすいように)規制されている事実も見逃せない。
<br />我々が普段使っている暗号は、「絶対安全」とは言えないのだ。
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<br />何らかの形で暗号に関わるのなら、この本は読んでおいて損はないだろう。
<br />文系出身でも十分読めるはずだ。
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<br />ただ、「技術解説本」としては、過大な期待をしてはいけない。
<br />現代の通信で最も重要なRSA暗号のアルゴリズムに関して、
<br />巻末に補遺として数学的な説明が記されているが、
<br />(さすがの著者も、本文での説明には難解すぎると判断したのだろう)
<br />判り易いとは言えないし、十分なものでもないと思う。
<br />RSA暗号のアルゴリズムについては「図解雑学 暗号理論」と言う本がお勧め。
著者は前作「フェルマーの最終定理」等でお馴染みの、先端技術を一般読者に分かり易く解説する事で定評があるライター。今回は「暗号」をテーマにしている。私の職業はソフトウェア開発であり、本書で紹介されるDES, RSA等の商用プログラムを作った経験がある事から興味深く本書を読んだ。
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<br />話は、スコットランド女王メアリがエリザベス女王暗殺に絡んで処刑されるか否かが、ある文書が暗号か否かで決まると言うシーンから始まり、いきなり読者を惹き付ける。著者の巧さである。次いで、カエサルも用いた換字法(現在の秘密鍵方式の一部でも使われている)、改良型のヴィジュネル法、それらに絡んで"鉄仮面"の話、ポーの暗号ミステリ"黄金虫"、そしてロゼッタストーンの話など話題満載である。
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<br />本書の特徴の一つは、第二次世界大戦で用いられた有名なエニグマについて詳細な説明がなされている点である。名前だけ有名なエニグマだが、他には例を見ない貴重な解説である。
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<br />そして、話は現在に移り秘密鍵暗号(DES, AES等)、公開鍵暗号(RSA, Diffie-Hellman等)の話である。私は復習のつもりで読んだが、初心者にも分かりやすいよう解説されている。特に、公開鍵暗号に力点を置いているようである。
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<br />最後は量子暗号だが、残念ながらこの分量と私の知識では理解できなかった。現在ではICカード、放送受信画像等身近な至る所で暗号が使われている。その暗号の歴史と現状を分かりやすく解説した良書。
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結城浩氏の『暗号技術入門』で参考文献として紹介されていたので手にとって見た。『暗号技術入門』は純然たるソフトウェア科学の専門書だったが、本書はそうではなくて、暗号の発展史を描いたジャーナリスティックな読み物である。
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<br />たとえば、16世紀、イングランドへの反乱を画策した暗号文書が解読され、スコットランド女王が処刑されたバビントン陰謀事件。
<br />19世紀、アメリカ人トマスビールが隠した莫大な金をめぐるビール暗号騒動。
<br />シャンポリオンのロゼッタストーン解読の物語。
<br />先の大戦で有名な暗号機エニグマの開発と解読の物語。
<br />世紀の大発明といわれる、公開鍵暗号の開発をめぐる物語。
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<br />暗号は、高度に知的なパズルであり、また人類の英知を結集した科学技術でもあるが、それは単なるテクノロジーではない。暗号のまわりにはいつも、人々の欲望、希望、好奇心、未来、そういったものが満ち満ちている。本書の面白さはまさにそこにある。
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<br />もちろん、科学史としても、資料としても相当な情報量がある。特にエニグマの内部メカニズムについては、これ以上詳しい資料はみあたらない、と翻訳者の青木がコメントしている。また、換字式暗号については、実際に例題を解読してみせるなど、パズルとしての面白さも十分だ。
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<br />おりしも映画「ダヴィンチ・コード」がビット中(2006年6月現在)である。暗号はどこか人間の奥底に直接触れてくるようなものなのかもしれない。秘められた暗号の歴史を紐解きつつ、知的好奇心をおおいに満足させてくれる一冊であった。