『国家の品格』で一躍有名になった筆者の本。数学界の9人の天才の素顔を追うという本で、筆者が彼らの故郷を訪れたりするため、紀行文としての味わいもある。
<br />ぼくは文系で、数学者は縁遠い人種だが、彼らの生き方は非常に面白い。公式や定理というものは、ひとつの真理から演繹的に辿っていけば、自ずから到達できるものだと思っていたが、どうもそう単純なものではないらしい。
<br />夏目漱石『夢十夜』に登場する運慶は、木材を仁王のかたちに削るのではなく、埋まっているものをそのまま掘り出すのだ、と語る。ならば、そこには掘り出すものの意志が、美学がなければならない。
<br />数学者も同様だ。文学や芸術に熱心だったワイル。「数学者は詩人でなければならない」と語ったコヴァレフスカヤ。「女神ナマギーリのおかげ」で発想を得ていたラマヌジャン。筆者は言う。和算家のレベルはニュートンに比べ遜色なかったが、『プリンキピア』は絶対にものに出来ないだろう。神による調和への絶対の確信、信頼がないからだ、と。
<br />そんな事実を知ると、数学者がちょっとだけ身近に思えてくる。
ニュートンや関孝和といった天才数学者9人の伝記です。それぞれの業績には一般的に触れるに留め,その生涯を生身の人間的な観点から追っていく本です。
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<br /> 現在まで名を響かせるような天才的な業績を残した数学者たちでも,数学一本にその生涯を注ぎ込むことができたわけではなく,経済的な問題,家族の束縛,その時代の嵐や宗教の足枷等が障害となって立ちはだかることが多々あったことが描かれます。そして,それにもめげずに数学への情熱と才能により,歴史に名を残す偉業を成し遂げる過程が書き記されています。そのバイタリティと能力,めぐってくる幸運には驚嘆するばかりです。
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<br /> しかし,その人自身が希望した分野への打ち込みがあり,その結果として,輝かしい業績が結実しても,幸福な人生を送ることができた人ばかりとはいえないところに,人生の難しさを感じます。幸福とは,思うように人生を送ろう&送ったとしても手の届かないものなのでしょうか・・・。
のちの宇宙論や素粒子論に応用されることになる偉大な公式や定理を残しながら非業の死を遂げ、近年に至るまで気に留られることもなかった本物の天才ラマヌジャン。エニグマの解読で世界史を一変させ、コンピュータの礎を作り、現代においても人工知能を含む人間機械論を語る上で欠かすことのできないチューリングを襲う悲劇的晩年。350年間証明されることのなかったフェルマー予想を解決したワイルズの想像を絶する苦悩と執念。その解決の裏に存在した谷山と志村の両天才日本人の友情。世代、国境を越えて名を知らないものはいない、大天才ニュートンの生い立ちと人物像。私は彼らの名前が冠された公式や定理以外何も知ってはいなかったのだ。
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<br />天才数学者たちの彩り多き人生模様を抒情的に書き切った。数学者たちの「大人の伝記物」としては他の追随を許さない出来栄えとなっている。数学に興味のない方でも楽しめることを請け合える必読の名著だ。