大組織のトップとして担った経営判断の困難さ、生々しさは残念ながら伝わってこない。
<br />紙面や執筆時間の制約、関係者への配慮があったのでしょうけれど、タイトルへの期待が過ぎたようです。
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<br />90年代、SONYが苦境に喘ぎ爆弾を抱えていたとは個人的に意識しておらず、へーというのが率直な感想。読み物として適。
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ソニー出井伸之の「私の履歴書」である。生い立ちからソニー社長として采配を振るった第4章までの記述は、いままで余り知られていなかったこと(長兄の病死、自身のブレーン集団、ビル・ゲイツらとの出会い等)が触れられており、凡百のソニー本とは一線を画す面白さだ。
<br /> 問題は結果的に今日のソニー低迷を招いた出井が、その失敗をどう語るかという後半の章だが、これが意外や意外、いくつかの点で率直に失敗と反省を認めている。とかく鼻っ柱が強い出井は強がりすぎて鼻白む点があったが、ここでは多少自己憐憫はあるものの、失敗を認めている。とりわけ平面ディスプレイの開発で、プラズマトロン(たぶんシャープと一緒に共同開発をしていたパルクのことと思う)の開発中止はいまになっても「あれが正しい決断だったかどうか悔やむ」と言及しているのは、正直な吐露だろう。
<br /> 星1つの減は、そうとはいえ、やはり自己に甘い点があることだ。「ソニー病」(祥伝社)所収の神鳥巽の論考と併読すると、理解が深まる。