本作は、壇ノ浦の合戦で祖母二位の尼に抱かれて入水した幼帝安徳天皇が、実は大きな琥珀の玉に封じ込められて存在しており、夢を通じて源実朝や南宋皇帝、マルコ・ポーロ、クビライ・カーンなどと関わっていく、という壮大で美しい歴史ファンタジーです。
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<br />第一部は、右大臣にまで昇りつめ、気鋭の歌人でありながら、名ばかりの将軍として苦悩の日々を過ごした源実朝の近衛兵であったという人物の口から、実朝と安徳天皇との出会いから旅立ちまでが語られます。
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<br />最初は難しい感じがしましたが、そのやわらかい語り口と、史実と作者の想像を丁寧に丁寧に紡いだ幻想的な世界の描写の美しさから、ぐいぐい物語に引き込まれていきました。
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<br />そして第二部では、安徳天皇と南宋皇帝の出会いから別れなどについて第三者によって語られ、マルコ・ポーロやクビライ・カーンなども登場します。果たして安徳天皇の荒ぶる魂に安らぎは訪れるのか?
<br />それが知りたくて、ページをめくる手が止まりませんでした。
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<br />ファンタジー小説では、ありえない設定によって気持ちが冷めることが多々ありますが、この本を読みながらそのように感じたことは一度もありませんでした。
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<br />時代や場所を超えて幾多の歴史上の人物をつなぎ、実在する詩などを要所で紹介することによって現実味のあるストーリーを作り上げた著者の筆力・想像力には脱帽です。
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<br />歴史が苦手な方にもおすすめです。
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広州の砂浜に漢字を書き連ね、夢中で筆談をして友情を育む、日本と南宋の二人の少年皇帝の姿が、目に浮かぶようです。
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<br /> それにしても、博多に攻め寄せた元の艦隊を撃退したのは、暴風ではなく、塩乾球と塩みつ球の威力だったとはね。
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<br /> 宇月原さんの博学博識に支えられた筆力、想像力には感服するばかりです。
とにかく、読後感が暖かです。(今まで作品よりずっと舞台となる時代が古いせいでしょうか)
<br />8歳で入水した安徳天皇の魂が鎮まるまでの軌跡を描いているのですが、宇月原さんの小説には付き物の「異国の邪法」は幻術どまりで、
<br />前3作のような息詰まる禍々しさはごく薄く、幻想的な雰囲気のほうが強いようです。
<br />神器に守られた安徳天皇・洞窟を覆う紅水晶・梅の花の下の実朝・砂浜で戯れる二人の子供・南宋の終焉・・・
<br />もちろん、鎌倉初期の政争も絡むわけですが、それは実朝の決意の前に霞んでしまいます。
<br />前3作を読んでこの本を敬遠している方、損してるかもしれませんよ!