大きな動物の心拍数は遅い。
<br />小さな動物の心拍数は早い。
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<br />ここで動物の寿命を心拍間隔で割ってみる。
<br />するとなんと、どんな動物でも一生に心臓が拍動する回数は20億回で一定である、という。
<br />これは衝撃的な事実だ。
<br />なぜなら、動物によって流れる時間の速さは違う、という解釈ができるからだ。
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<br />生物学には昔から、サイズに着目した研究分野があるらしい。
<br />本書はその「サイズの生物学」から得られた様々な知見のガイドブックである。
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<br />時間以外にも、使用するエネルギーの量や骨格の構造など、サイズに着目することによって、生命共通の設計図が見えてくるという。ここが大変に興味深い。
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<br />大きな動物の感じている時間の流れは、小さな動物の感じているそれとはちがうのかもしれない。時間は過去から未来へ行儀よく、誰にとっても同じ速さで流れているものではなくて、極端なことをいえば、生物一個体ごとに速さが異なっているのかもしれない。
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<br />あまり哲学的議論につなげてしまうのは、本書本来の生物学としての面白さを損なうので適当にしておいたほうがよいが、いろんな不思議と新たな「なぜ?」をたっぷりと堪能することができる、いう点において興味はつきない。
<br />まず読んで絶対に損はない一冊である。
まずタイトルが良い。副題の「サイズの生物学」がなければ、相対性理論の解説書かしらとも、哲学的な時間論かとも取れる。「象の時間 ねずみの時間」という風に表記したら、イソップばりの寓話かしら、とも思える。タイトルだけでこんなに想像力が膨らむ良書である。
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<br />ところで、副題にもあるようにこれは大変まじめな生物学への招待状的内容。タイトルは、「サイズが違えば認知される時間も違う」という不思議な、しかしきちんとした科学的根拠のある事実に基づいている。
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<br />「島の規則」と呼ばれる古生物学の法則を引用して、島の生物である日本人のアイデンティティーと、大陸に棲息する米国人の違いを云々してみたり、動物のサイズとエネルギー消費量の法則から、現代日本人のサイズを4.3トン(ほぼゾウのサイズ)であると見積もったり、サイズと生息密度の対比から、日本人の住環境は「ウサギ小屋」でもまだほめすぎで「ネズミ小屋」が妥当な表現である、と言ってみたり、というふうに生物学の見地から見た現代人へのユーモラスな皮肉も随所に効いている。
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<br />行動圏とサイズの対比から原題のヒトのサイズを導き出してもやっぱり4.3トンとなるらしい。
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<br />「なぜ車輪動物は存在しないのか」というくだりもいたく納得した。なるほど、と感心したい方はぜひ本書でお確かめください。
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<br />シロウト相手を前提としているはずの新書ながらも、結構数式が多数登場する。法則の話なんだからしかたないけれど、分数だったり虚数だったりすると文系の私にはちょっとつらかった。が、自らを叱咤激励して読み込むに値する良書です。
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本書の題名の由来は以下のような事実である。
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<br />物理的時間で測れば、ゾウはネズミより、ずっと長生きである。ネズミは数年しか生きないが、ゾウは100年近い寿命を持つ。しかし、もし心拍数を時計として考えるならば、両者は全く同じだけの寿命を持つ。サイズの小さいネズミは体内現象のテンポが速いのだから、両者は同じ時間だけ生きていると感じるのではないか。
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<br />本書はこのように動物のサイズに着目して生物を理解しようとするユニークな書である。サイズから見た日本人の代謝量が他の恒温動物より一桁大きいという警鐘も鳴らす。また、サイズとコスト・パフォーマンスの点から、何故車輪型動物がいないかを解き明かす。
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<br />また、「大きいことはいいことか」という章では、サイズが大きいと色々利点もあるが、一世代の期間も長いので、克服できないような大きい環境変化に出会うと新しい異種を生み出せず絶滅しまう可能性が高いと説く。私などは、これが恐竜が絶滅し、哺乳類が生き残った原因なのかなぁと単純に思ってしまう。
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<br />まさに目からウロコの論が満載な、面白生物本。