新書という、ある程度の部数の販売が見込めるとの前提に立たなければ企画できない、発行できないジャンルに、医療経済学の入門書が登場する時代になった。
<br /> 本書は決して難解ではないが、読み込むためにはそれなりの知識を必要とする。発展的に医療経済学を考える際に、巻末の「参考文献」は大いに「使用価値」がある。
<br /> 本書の帯(腰巻)には、「医療関係者必読の書」とある。
<br /> 「医療関係者」が政策の波に漂う流木であることから、己の存在を確認し、その存在を社会に主張することを望むならば、本書を手に取ることが必要と思われる。
最初の1、2章ではまず経済学の用語などの解説が始まりますが、この段階ではそれがどのように医療経済学と結びつくのか良くわかりません。その後医療経済学の話になるわけですが1、2章の説明が必ずしも生きておらず、とても硬い語り口でわかりづらい印象です。著者は医学部を卒業し、経済学もかなり勉強された方のようですが期待はずれでした。
149ページ「医療費を増大させる技術進歩をビッグ・チケット技術といい(中略)医療費を減少させる技術進歩をリトル・チケット技術という。」という説明、アメリカの医療経済学では常識なのかもしれませんが、語学力のない私には極めて明快な分類。
<br />
<br />かつて、川上武は『技術進歩と医療費』の中で、医療技術を現象的技術・実体的技術・本質的技術に分け、本質的技術以外は医療費を増大させると説明しましたが、根拠である武谷三男の認識の三段階説じたいがカントの誤用と思われ、違和感を覚えていました。
<br />
<br />こと医療費に限るなら、著者の紹介した説明のほうが余程わかりやすいです。
<br />統計資料の公開が進んでいない日本での医療経済学のリサーチはきびしいかとは思いますが、さらに研究を進めて建設的な提言をしてほしいと思います。