スーパーリアルとしての陰翳を読者の脳裏に克明に焼き付けることに成功している。
<br />谷崎曰く、この本は氏の理想としての陰翳の姿を描いたもの、だそうだ。
<br />それならいっそのこと、その理想を21世紀を生きる我々が追求していくのもありだと思う。
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<br />私事ですが、羊羹を食べるくだりが頭の中に映像として鮮明に染み付いています。
<br />羊羹を食べる彼は、まさしく谷崎その人でした。
昔、日本には本当の闇があった。どんなに目が暗闇に慣れても、どんなに目を凝らしても何も見えない闇があった。こうした質感量感のある闇を尊敬した谷崎。闇こそが美しい光を支えている。重い暗さが、羽根のように軽やかな明るさを支えている。女が美しいのは、こうした闇に隠れた部分があるからだ。白い顔、白い手。それだけが日本の女なのだ。美しさはそれ以外の部分が隠されているからこそ、美しいのである。
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<br />評論の苦手だった谷崎の唯一成功した素晴らしい芸術論文化論です。理屈じゃない、証拠なんだと訴えもし、実践も残してきた谷崎ですが、このエッセーで作家の文学的美学的立場をくっきりと描ききったといえると思います。そしてこのように自身の芸術的信念を意識化したことで、続く作品が全て失敗のない作品になっているのは谷崎の読者にとって非常な幸福であるとともに背中の荷物を下ろしたような安堵感に浸るような気持ちにさせられます。三十代四十代と苦労に苦労を重ねてきた谷崎の闇を潜り抜けた記念碑的エッセーです。
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建築を志すものとして、まずはこれを読んでほしい。
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<br />なぜみそ汁のお椀は黒いのか。
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<br />「陰影」のなかで我々の祖先はいったいどのように快適に生きたのか?
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<br />日本の建築を探る一冊。
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