このような概説本は、本当に書くのが難しいと思う。辻 惟雄氏は長年の教授歴や美術館長のご経験からそのことを痛切に感じておられたのではあるまいか?同書は飽くまで 一人での自己流である。
<br />辞典のように書く専門家に任せた編集ではこうはいか無かっただろうと思われる。縄文時代から手塚治虫氏、千と千尋、まで10章で非常によくまとまった本だと感心する。我々だけでなく、日本に来ている留学生には最適である。
美術史の本というと、網羅性と客観性を重視するあまり、つい眠たくなってしまうものが多いのですが、この本では、ときどき辻さんの生々しい感嘆の声が聞こえてきて、読んでいると思わずのめりこんでしまいます。日本美術のすべてを網羅する壮大な美術館を、辻さんが案内人になって見ている感じです。半面、この本を教科書として考えた場合は「辻史観」が強すぎるといえるかもしれません。
<br />しかし、辻さんの視点は、縄文から漫画・アニメまで公平に扱い、なおかつ偏狭さに陥らない姿勢が一貫しているので、好感が持てます。日本美術の特定の分野に興味のある人で、もっと視点を広げたいと思っている人にお勧めします。この本を読めば、美術館で今ままで素通りしていた展示物にも、興味がわいてくるようになるでしょう。また「わび」「さび」といったキーワードで語られることの多かった日本文化も、それだけじゃないということも、よくわかると思います。
■古代の縄文土器から現代の宮崎アニメまで日本美術を俯瞰した一冊。
<br /> ペ−ジをめくるだけで目に飛び込んでくる
<br /> 380枚にも及ぶカラ−図版がとても美しく、
<br /> とんと美術に関心のない私を、
<br /> ついつい日本美術の素晴らしい世界に誘ってくれました。
<br />
<br /> すでに他の方の書評でも書かれていますが、
<br /> できれば英語をはじめ多くの外国語に翻訳されれば、
<br /> 日本美術の素晴らしさを広く海外へ紹介する絶好の書になるように
<br /> 思います。
<br />
<br />■ 冒頭と結びで著者は、日本美術の特性を、
<br /> かつて奈良・京都を空爆から救った恩人でもある米国のウォ-ナ-の言葉を借りて、
<br /> 「enduring(エンデュァリング)」:永続的=いつまでも生きながらえる
<br />と評しておられます。
<br />
<br /> 翻って、音楽の世界ではどうでしょうか。
<br /> 日本の伝統音楽の権威で、
<br /> 過日なくなられた吉川英史氏の著作の一つに
<br /> 「日本音楽の歴史」(創元社1965)がありますが、
<br /> 美術の世界とも重ね合わせながら、
<br /> 明治以降に取り入れられた西洋音楽と日本の伝統音楽との間の関係を
<br /> じっくり辿ってみると、新たな発見があるかもしれませんね。
<br />
<br /> いつかそんな著作が誕生することを期待しています。
<br />