例えばP288「動物の恐怖は違う」では、「自閉症の人間」の恐怖と「動物」の恐怖は、「過剰特異性(意味は、読んでみてください)」で同じものと括られている。
<br /> これには、次の反論がある。
<br /> その指摘は、「人間が動物に感情移入してみたてた、擬人法にすぎないのではないか」ということだ。「なぜなら、動物には、人間のような複雑な心はないのだから」と。
<br /> 更に、これに対しては、次の反論がある。
<br /> 一・論理的整合性がとれなくても、経験則で、「自閉症の人間」の恐怖と「動物」の恐怖は、親和性があるとまでは、言えるのではないか。
<br /> ニ・人間同士でも所詮、類推して、「相手にも心があるらしい」ことにしている。
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<br /> 私自身は、上の一・ニは反論として有効と思えるので、本書の評価を☆3つで保留します。
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自閉症である著者が、自分の自閉症である部分と向き合い、そしてまさにそれを活かして活躍の場をどんどん広げていらっしゃる事に驚きました。動物の持つ感覚、人間という動物の感覚、自閉症として生まれた自分が感じることのできる感覚、このまるで違うように思える感覚を実に見事に文章で表現し、[人は一部分しか見ていないが、動物は全体を見ている]というくだりなどは、目からウロコでした。テンプル・グランディンの才能に驚き、目をみはる一冊です。
著者のテンプル・グランディンについては、随分前にオリバー・サックスの「火星の人類学者」を読んで知った。自閉症でありながら動物科学者であり動物に深い愛着を持っている。彼女が考案した食肉処理施設は、家畜に不安や苦痛を与えないように設計されており、世界中で使われている。彼女は人に抱きしめられるとパニックを起こしてしまうので、家畜を押さえる締め付け機を改良して使い、自分が気持ち良いだけの圧力をかけてリラックスする。こんな話が印象に残っていて、いつかこの人の自伝を読もう、とずっと思っていたら、この「動物感覚」が出た。
<br />「動物感覚」を読んで、テンプル・グランディンの活躍が想像よりもはるかに凄いことが分かった。家畜が人道的に扱われているかチェックするために世界中を走り回っている。監査方法も理路整然と無駄がなく効果的で惚れ惚れしてしまう。もちろん動物科学や自閉症の研究もしている。動物が世界をどう感じているか、人間とどう違うのか、人間が動物にどう関わっているのか、実験、観察の結果を述べる研究者でありながら、まるで動物の代弁をしているようでもある。自閉症患者と動物は似ているところがあるそうだ。やや専門的なところもあるが、たいていは理解できる。へぇ、そうなんだとビックリすることや哺乳類の一員として妙に納得してしまうところもある。動物に関する蘊蓄が増えた。「哺乳動物と鳥はみな、自分たちを取りまく状況に好奇心と関心をもっていて、いいことが起こるのをほんとうに楽しみにしている。」という一文がとても気に入った。