「NHKスペシャル レベル4への挑戦」というタイトルで制作され、
<br />オリンピック直後に「金メダルへの道」というタイトルで再編・再放送された番組を文字化したものですが、
<br />テレビで放送されたものより、こちらの本のほうが良い内容になっていると思います。
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<br />テレビで放送されたときは何だか「今のルールは荒川選手には不利に働き、本当にやりたい演技は封じられ、
<br />レベルを稼ぐために意味のない・やりたくもないポーズやバランスを取ることばかりが求められていることに抵抗を感じ、葛藤している」
<br />かような印象が強調されすぎている気がしたのですが、
<br />この本を読むと「各エレメンツのレベルが上がるための特徴には相応の難しさがあり、
<br />その技術を習得し、実行して、自分のものとして納得のいく演技をすることは
<br />世界の頂点を極めた荒川選手にとってもたやすいことではなかった」ということ、
<br />そしてこの壁を乗り越えるために取り組んだこと、
<br />その部分が具体的に伝わって来ました。
<br />テレビでは出てこなかったことも結構書いてあります。
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<br />手に取ったときは最近多い分厚い紙と大きな活字で読む量が少ない本だなあと思いましたが
<br />過剰に持ち上げたり肩入れすることも美化することもなく、無駄のない文章で書かれていて、なかなか良い内容でした。
<br />ひとつだけ、どうしても気に入らないのは番組放送時もそうでしたがソルトレイク五輪の騒動について
<br />「採点で不正が行われた」と既成事実化してしまっていることです(この件の真相は不明なままです)。
<br />それから些細なことなのですが、スルツカヤ選手はソルトレイク五輪の演技で転倒はしていません(クワン選手との間違いでしょう)。
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「日本のすべてのスケーターに「荒川静香が行ってよかった」と思ってもらえる
<br />ぐらいの演技をしよう。自分のためだけでなく、ここまで戦ってきたすべての
<br />選手の気持をもって、トリノへ行くんだ」
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<br />NHK取材班が、荒川さんが不調のときも好調のときでも常に変わらず「あなたを
<br />信じます」という態度で取材し続けたのも、タラソワ、モロゾフ他の一流コーチ
<br />たちが渾身の力で彼女を教えたのも、荒川静香自身のまっすぐさ、懸命さ、
<br />清らかさを信じていたからだと思います。
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<br />一読、人生の達人の凄みある言葉を知ったときのような、無条件で尊敬できる
<br />偉大なスケーターだと本当に感動しました。
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<br />美しい写真、的確な文章、巻末のインタビューも含めて素晴しいしあがりの
<br />本です。こういう底力を出してくれるから、こうやってスポーツへの愛を
<br />示してくれるから、わたしはNHKに受信料を払い続けます。
<br />荒川さんは死ぬまでスケートを続けると断言しています。
<br />今、スケートを世界で一番愛する女性からの素晴しい贈り物です。
<br />自分の中で本書は今年のナンバーワンになりました。
丁寧に取材を続けていないと作れない、と評価の高い番組が本になりました!ですね!!
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<br />メダルが欲しかったわけではないと言いながら、オリンピックの魔物に惑わされることなく計算勝ちを狙う作戦を立てて、それをしっかり遂行できた、しーちゃんの冷静さと、なんとしても最上のものを出したいという強い気持ちが良く分かる本。
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<br />技術的に自身の最高レベルではなかったとしても、トータルで最高のものにできたという自信も、今のしーちゃんを輝かせているのかもしれません。
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<br />やっぱり金メダルを取るような人は我々凡人とはモノが違うね。。