SASの任務でマクナブ氏含めた8人はイラクに潜入するが、不運な人的ミスの連続で失敗を余儀なくされる。それは抜きにしても、氏はリーダーとして常に決断を迫られる状況が重なる。そんな時、兵士は静観が許されない。乗るか反るか、つまり生か死かを選択せねばならない。とかく我々は何事においても状況に流されがちで、自分で決断を下し難い。僕はこの著書で、待っているだけでは悪い状況を打開できないことを痛感した。それにどんなに現状が苦しくても、氏が被った受難に較べれば我々のそれなど屁みたいなものだ。だから我々だって決断できるはずだ。
現存する?史上最高レベルの戦記だと思う。
<br />もっとすごい記録は世に出てない。戦争における任務の遂行は秘密裏に行われるものだから。または成功が目立たないことほど成功だから。
<br />という意味では本書は失敗の記録だ。
<br />戦記というとかなり長いスパンで大規模な戦争と取られそうだが、湾岸戦争におけるSASの8人による作戦の記録。
<br />そしてこの記録は個人の主観で描かれている。とはいっても著者は客観的になるよう注意深く気をつけているのだが。
<br />後半は主観なはずだが、客観的に書こうとしている文体が恐怖感を煽る。何故かと言うと…。
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<br />つまり自白を強要される拷問、暴行の連続の記録なので…。もちろんそういう状況の訓練も受けているのがSAS隊員なわけで。
<br />ところがそう簡単にいかないのが人間で、戦争で、さらに極限状態なので。相手が相手だし。
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<br />作戦前の作戦立案の打合せ、何かとアクション前に行うチェックのやり方、常軌を逸した重量・装備(補給が受けられないので一人100キロ近く!)。
<br />尿を入れるタンクまで持ち歩くのです。尿で作戦がばれるのを防ぐため。尿は動物その他に影響を残し、敵に見つかるリスクが上がるらしい(地形によるのかも)。
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<br />リアル過ぎるリアルさが突き抜けたレベルなので、気持ち悪いのを通り越してあっけに取られるしかない。またはある意味、馬鹿馬鹿しい気もする。
<br />でもそれが戦争…。
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<br />解放後、飛行機で護送時に米英の僚機が見せたサービスには感動。
要するに、失敗したミッションの一部始終を書いた本である。しかし「貴重な教訓は、むしろ失敗から得られる」わけで、メチャメチャ面白い。
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<br />本書口絵に、太い黒ベタで目を隠された著者や同僚の写真が載っている。無精ひげやダサい服装がむさ苦しい。SASは敵地潜入の一週間前から風呂に入らない。理由は本書冒頭に出てくるので読んでください。むさ苦しい身なりにも全て理由がある。経験と、考え抜かれたプランの結果、彼らは映画に登場するカッコイイ特殊部隊とはかけ離れたダサい格好で戦うのだ。
<br />本書では、彼らSASの行動の理由や目的を、何の知識もない素人にも理解できるよう、懇切丁寧な説明がしてある。しかもその説明が理詰めで面白い。低体温症の理屈と、彼らが実際に遭遇した大寒波でどんな肉体症状か出たかの描写など、非常に秀逸。武器類の説明も面白く、補給のないゲリラ戦での使い方など類書にはない。このスタンスは終始変わらず、捕虜となって拷問を受ける際も、理屈と実際が淡々と述べられる。恐ろしい暴力。それに無言で立ち向かう著者の意志。凄い。
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<br />著者は学歴皆無で16歳で陸軍に入った元不良少年。しかし本書の面白さは大作家にも全然負けない。また理知的だ。SASの厳しい訓練と経験が素晴らしい洞察力と描写力を著者に与えたのだ。
<br />何より素晴らしいのは、彼らの「意志」力は生まれつきではなく訓練の成果であることだ。人間はここまで強くなれる可能性がある、ということ(私だってきっと)。そして、どんなに厳しい状況でも「仲間」と苦しさを分かち合うことができれば、もっと強くなれる。刑務所での仲間たちとの描写は本当に泣かせる。
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<br />じつに恐ろしい内容の本で、読むのが辛くなる部分もあるけど、私は強く勇気づけられた。本書は何百年経っても古くならないはずだ。人類普遍の価値を描いた、輝かしい文献だからだ。