著者は、本年度ノーベル平和賞の受賞が決まりました。
<br />グラミン銀行に対しても賞が贈られるそうです。
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<br />簡単なことですが、平和を考えるための第一歩として、現実に行われている実践から
<br />学ぶことには大きな意義があると思います。
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<br />昨今の状況とも合わせて、何が平和なのかを教えてくれる本だと思います。
グラミン銀行は、現在では開発途上国の貧困層の支援策として広く世界で活用されつつあるマイクロクレジットの創始である。途上国はおろか米国等先進国における貧困層の自立支援策としても一定の広がりを見せつつあり、最近では(役所の刊行物である)わが国中小企業白書のなかでも描写されている。ムハマド・ユヌスは、そのグラミン銀行を起業し、マイクロクレジットという「ビジネスモデル」を構想、実現した人物。<br> 本書はその自伝であり、もとより穿った見方はできるのだが、ユヌスがどのような道程を経てマイクロクレジットを世界に広めていったかを伝える、数少ない書と言える。<p> 「美しい経済理論を教える教室」から一歩外に出れば「死体があふれる現実」のバングラデッシュの貧困の世界が広がる。一方で、厳格な回教の教えのもとで、貧困層の女性には自立する機会が与えられず、女性への暴力が跋扈する社会。このなかで、貧困の解決と女性の自立とを目指し、ユヌスはマイクロクレジットを構想する。<br> 眉唾と見ることは簡単なのだが、本書を通じてユヌスに見出せるその人間性は、経験主義と実践する力、ジンテーゼを構想する知性、Personal Missionを自覚した者が特有に持つ自己ドライブの力といえよう。<br> 特に、「第一級の知性と言えるか否かは、2つの相反する考えを同時に心に抱きながら、なおかつ思考を機能させる能力を持ち続けることができるかどうかで決まる」というスコット・フィッツジェラルドの言葉のとおり、その執拗なまでの思考と知性とをもって、解決困難として放置されてきた問題に対する少なくとも一つの解を見出し・実行した点は、高く評価されるべきなのだろう。<br> また、マイクロクレジットが、あくまでビジネスモデルとして構想されていく過程は興味深い。<p> 美しい理論の視点から現実を切り捨てることは容易であり、学歴が高まるほどにこの性向には勝ち難い。しかし、ユヌスが見せたように、理論の象牙の塔に留まり現実に身を投じることなくしてはジンテーゼは生み出せない。斯様に当然のことを改めて強く認識する機会を、本書は提供する。
これは単なる伝記ではありませんでした。<br>どのようにグラミン銀行とマイクロ・クレジットのアイデアが生まれたか、という点も興味深いですが、なぜマイクロ・クレジットが機能するか、その現実的な仕掛けのヒントも入っていますし、ある意味、非常に面白い「起業ストーリー」でもあります。<p>でもそんじょそこらの起業ストーリーではなく、世界の最貧層という、普通ならマーケットから見放された人たちを相手にした2重の意味での起業なんですから。一つはグラミン銀行の、そしてもう一つは借りての貧困層の人たちの。<br>いや面白い本でした。