数々の賞を受賞した本作。
<br />ラストまで一気に読めた。
<br />ミステリとしての完成度とともにストーリーがすばらしい!!
<br />これを読まなかったら、人生損しているとさえ思います。
<br />今年の「本格ミステリ大賞」のつまらなかったことと言ったら
<br />実に残念です。去年のレベルの方が高かったですね。
理系・文系の分類をされる方がいますが、まさに東野さんの作品は、理系出身の作者らしく、構成がしっかり計算され、よく出来た、読みやすい作品だと思います。人間模様や登場人物が抱えているものに運命的な哀れを感じさせるのも計算のうちなのでしょうが、描きこみが足りないせいか、なんとも切ない読後感を引き摺ります。こうしたある種の無機的な部分と有機的な部分の微妙なコンビネーションが、絶妙に東野さんワールドを形成していて、単なるミステリー小説の枠を越えて、大きな魅力になっているように思います。連想するのは、松本清張さんの作品ですが、そこまで人間の業の深さをえぐることもなく、相対的に爽やかな仕上がりになっているのが救いです。帯にあるように純愛モノと言えるかどうか。私はこの愛情はひとつの代償行為であり、むしろ主人公の抱えているものの重さを思い、切なくなりました。そういった意味で、この作品も、東野さんらしい作風で、裏切られることはありません。
天才とはその先駆性、非凡さゆえに、正当に能力が評価されないままに人生が終わってしまうことも多いという話がある。
<br />本著を読んで、そのことをあらためて感じさせられることになった。
<br />心から愛する人を護る為に、甚大な自己犠牲を払ってしまう数学の天才石神の姿は、ただただ悲壮感で胸が苦しくなる。
<br />何故、一方的に恋心を抱いた相手に、ここまでのことができるのだろうか。そして、彼がこれほど尽くしても、意中の女性は、全く振り向いてくれない切なさ。
<br />はじめは、本当に悲しくて、救いようのない物語だと思って読みすすめていた。
<br />彼のライバルだった物理学者湯川は、同じ天才的な才能をもつ人間として、彼のことを一番理解していた。
<br />それ故に常人では、絶対に見出せない事件の真相へ辿りついたわけだが、その事実もまた、驚愕とともに絶望的な悲しさを感じてしまった。
<br />この物語の唯一の救いは、どこまでも優しい物理学者湯川の眼差しであろう。事件によって傷ついてしまった人々の心のケアを尽くす彼の姿もまた泣けてくる。
<br />ガリレオ探偵シリーズでは、それほどカリスマ性を感じなかったものの、今回の作品を通して、湯川は、とてつもなくスゴイ人だったんだなと感じ入ってしまった。
<br />そして、その湯川のような人物を生み出した、東野氏も、本当にスゴイ作家だと思う。
<br />天才として世に生を受けても、その才能を買ってくれる人がいない限り、不遇な人生が待っているかもしれない。
<br />そう思うと、いろいろと考えさせられることが多いのではないだろうか。記憶に鮮明に残るある天才数学者の物語だった。ハードカヴァーで読む価値は十分ある。
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