白石氏の作品の中では「私という運命について」の筆力、構成力に圧倒されましたが、今回の作品、私自身が「福岡出身」ということもあり、それぞれの舞台設定や言葉の息遣いまで伝わってくるようで、小説を読む楽しさを久々に満喫することができました。特に『20年後の私へ』『ダーウィンの法則』本書のために書き下ろされた表題作『どれくらいの愛情』は、作者の眼差しに心を揺さぶられる力強い作品でした。この一冊は、平成18年下半期の直木賞候補作品としてエントリーされましたが、ぜひ、受賞して欲しいと心より願っております。
今、一番白石一文が好きだ。私は、神奈川の生まれではあるが、博多の街にはとてつもなく思い入れがある。何度か旅行をしただけだが、とても懐かしく温かい。もし、自分の生まれ故郷を選ぶ事ができたのならば、私は間違いなく博多の街を選ぶだろう。白石一文さんの作品には、博多の街の風景が目白押しに出てくる。そして、博多の人達がとても生き生きと描かれている。それだけで、もう星5つ。さらに白石一文さんの作品はさりげない愛情、それもとても深い愛情にあふれている。いいな。本当に素敵な作家さんだなと思う。
表題作『どれくらいの愛情』は、「強い意志と信念を持っていれば運命を変えられる」、行動の価値基準を自身の内面に持ち続けるための、「堅忍不抜のずっとずっと強い信念体系が必要だ」ということが主題となり、ほとばしるかのごとき思考の動きと、心の奥底からの衝動となった思念が、次々と伝わってくる。<br />そして、それができるか否かは、前作『もしも、私があなただったら』でも描いていることに、一にかかっている。<br />あとがきに、それが解となって明かされている。あとがきを読んだ後、また本編を、著作時期の順に読みたくなる。<br />目次を手にしたときに、長編小説でないことに落胆した読者は多いと思うが、あとがきを読んだ後は、著作時期順に読み、筆者のかの思考の動きに触れる楽しみを味わえることを知る。