中学生の頃に「サラダ記念日」20代前半に「チョコレート革命」と出会って、
<br />出産して二歳のこどものママになった今、
<br />そうそう、そうだったのよとわが身のように思いながら一気に読んだ子育ての歌集。
<br />寝かしつけの抱っこで、溺れるように動く赤ちゃんに寝寝かせようとすることは「沈めることか」という歌が、夕暮れ泣きに弱ったあの頃を思い出させました。
<br />半ばは恋愛の歌もあります。
“子育て”と一言で言ってしまうにはあまりに深いその行為。さすがに言葉を上手く使って切り取ってあります。子供の成長の喜び、驚きと離れていく寂しさはまさに紙一重。子供を育てている今だからこそ、一語一語が突き刺さりました。親にならなかったら感じなかった感情にあふれていて、20年経ってもまた読み返すだろうな、と思わせる本です。
俵万智の最新歌集。
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<br /> 「サラダ記念日」(1987年/河出書房新社)に心くすぐられる思いをしたのがもう20年近くも昔のこととなりました。俵万智と私はほぼ同い年。当時私たちが歩んだあの時代、経済は上り調子。政治の季節は先行世代で終わったものであり、天下泰平の世が続くと信じて疑うことがありませんでした。無邪気この上ないあの時代の空気を、三十一(みそひと)文字という古風で典雅なリズムに落とし込んだ彼女の歌は、和歌に対して私たちの多くが抱いていた近寄り難さや厳粛なイメージを、向こう見ずな若さで笑いのめしていたように思います。私は心ひかれる思いとともにあの歌集を幾度も読み返したものです。
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<br /> 次に手にした俵の歌集「チョコレート革命」(河出書房新社)が出たのは1997年。震災とサリン事件とに打ちのめされ、そしてもう脱することは永遠に叶わないのではないかというほどの不景気の只中にあるとき、俵もまた心を引き絞る恋に身をやつしているようでした。今読み返すと印象は異なるかもしれませんが、私はコンテンポラリー(同時代)な作品としてあの歌集を読んだ時に、時代精神に近似した痛ましさを感じないではいられませんでした。
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<br /> そして「プーさんの鼻」です。息子が赤子から幼児へと成長する過程を丹念に綴った歌を中心とし、結婚したばかりの弟や、孫を抱く両親、そして息子の「いるけど いない」父親である男性との関係を刻んだ三百四十四首が収められています。
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<br /> 子への慈しみや、男への解きほぐし難い思い。人生というのは一筋縄ではいかないものです。その清濁をあわせ呑む心模様が、この歌集で静かに40歳のシングルマザーの手によって綴られているのです。私はそこに、俵万智の(成長というのがおこがましければ)確かな歩みを見た思いがします。
<br /> ゆっくり、じっくり味わうに値する一冊でした。
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