(内容はともかく)清水崇監督作品が2作続けて全米1位になり、クリント・イーストウッド監督の硫黄島2部作が製作された2006年にこの力作が出たことは非常に興味深い。とくに硫黄島2部作の作品としての成功は一人の監督が2作品とも手掛けたことにあると、この本を読んだ人は思うだろう(もちろんイーストウッド監督と匹敵する日本人監督がいるかどうかは別問題)。
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<br />この本を読んで感じるのはやはり日米の文化やシステム、契約等の違いである(資料の保存一つとってもその違いは明らかだ)。それによる双方の誤解を真珠湾に重ねて語るというのはややロマンチック過ぎるかもしれない。もちろん黒澤側に問題がなかったとは言わないがアメリカのシステムに黒澤をはめ込もうとすることがはじめから間違いだったのだから。
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<br />この本にはリチャード・ザナックに関する記述があまりない。最近ではティム・バートン監督とよく仕事をし、「チャーリーとチョコレート工場」のプロモーションで来日もしたばかりだ。彼に対する黒澤の評価が低いのは読めば分かるが、著者もそれに付き合うのはどうなのだろうか、当時のことを知る人間が少なくなっていることを考えれば残念なことである。とは言え映画ファンには必読の力作であることには変わりない
まず、大変な労力を払ってこの本を完成させた作者に敬意を表したい。世界的な映画の巨匠だった黒澤明の映画人生における
<br />もっとも大きな挫折、『トラ・トラ・トラ!』の降板問題を、当時の関係者にあたり緻密に検証した大作である。
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<br />なかでも敏腕プロデューサー・エルモ・ウィリアムズの証言、あらたに発見されたアメリカ側の資料などは極めて貴重なものだ。
<br />『トラ・トラ・トラ!』をめぐるトラブルは黒澤ばかりでなく、アメリカ側の関係者にも大きな痛手と損失を与えたことが改めてわかる。
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<br />お互いが尊敬の念を抱きあいながらも、日米の映画事情の違いなどからすれ違いを繰り返す黒澤とハリウッド。
<br />黒澤の芸術家としての才能を高く評価しつつも、合理的な観点から降板を決意せざるを
<br />得なかったアメリカ側の苦渋、そして黒澤の怒りと絶望はそれだけでドラマチックな悲劇を思わせる。
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<br />黒澤の映画に対する想像を絶した完璧主義とこだわり(山本五十六ほかメインキャストに全くの素人を起用したのはほんの一例)
<br />に改めて驚くと共に、これほどの巨星が映画界に現れることはもうないだろう、という感慨に襲われた。
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煽るような下品な題名(失礼)、著者略歴を見てもあまり映画とは御縁が無さそう…大丈夫かこの本…でもトラトラトラは最高の戦争映画の一つだし!黒澤映画好きだし!と若干腰が引けた感じで買いました。
<br />読んだら驚いた。なななんすかこれは。
<br />監督存命中は難しかったかもしれませんが、今この人がこうして記録を残してくれて本当に良かった。いい本でした。