最近毎日のように取り上げられる日本の「格差社会化」の問題。「パラサイト・シングル」や「希望格差社会」などの流行語を生み出してきた社会学者が、日本の格差の現状・発生原因を分析し、解決の処方箋を示す。
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<br />さすが、この分野のエキスパートだけあり、格差社会の現状分析は鋭い。近年発生している格差を、1.仕事における格差(いわゆるニューエコノミーの進展により、仕事の質が、大きな付加価値を生み出す中核層と、代替可能な単純労働に分化した) および 2.家族の格差 (家族形態の多様化に起因する格差)に分類したうえで、これらの格差の発生は、より自由で快適な生活を目指す社会においては「不可避であり不当ではない」ものと整理している。
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<br />その上で、一時的な経済上の格差は是認されうるが、「格差の固定化」(生涯に渡る賃金格差や世代間の格差の再生産)は、「希望格差」を生じさせるために、解決が必要との立場をとる。(「やっても無駄」との絶望を感じる人々が社会全体の活力を失わせ、治安を悪化させる「外部不経済」となるため、放置すれば日本経済全体が減速する。)そこで、賃金格差の発生自体は「構造的なもの」と是認しつつも、格差の固定化を防ぐこと、「底抜け」した貧困層へのセーフティネットを充実することを提言している。
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<br />格差の発生は、個人の努力や能力の問題に還元されたり、逆に、資本家等の強者による弱者搾取の問題と考えられることもあるが、著者は、これらとは異なる視点でこの問題を捉えており、かつ、非常に説得力のある議論を展開している。格差問題解決のためには、対症療法ではなく、社会の構造変化を踏まえた対策が必要という議論は非常に明快だ。
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<br />また、一方で、現在いずれも大きな社会問題となっている、「非婚化」、「ニートの発生」、「学級崩壊」、「犯罪増加」、「家族崩壊」の問題までも、この「希望格差」の枠組みで発生原因を説明している(第2部)。これも非常に興味深く説得力がある(個人的には、「貧乏男は結婚できない」という身もフタもない結論はショッキングでしたが)。
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<br />本書は、現代の格差社会を語る上で、必読の書といえる。政治・行政に関わる方々はもちろん、全ての人に一読をおすすめしたい。
機会の平等でもなく
<br />結果の平等でもなく
<br />希望をもって生活できる平等。
<br />社会の分析もさることながら
<br />とても説得力ある論の展開でした。
<br />データの羅列にならず、とても読みやすい内容でした。
<br />「収入の少ない男性は結婚できない」というのは
<br />かなりショッキングでしたが
<br />一方、すっと胸に落ちました。
<br />仕事をしても希望がもてない。
<br />勉強をしても希望がもてない。
<br />子供がいても希望がもてない。
<br />負担でしかない。
<br />作者が展開する対応策で課題が解決できるのか
<br />そこの確信はできなかったのですが
<br />問題提起と解決へのベクトル提示は
<br />とても納得いくものでした。
著者は、格差社会が解決しないのは、それが不当な要因から生じたものではなく、むしろ、望ましいと見なされることから派生していると指摘されています。決して、小泉内閣が原因ではないとも。
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<br /> 世界が、工業社会から、ニューエコノミー社会に転換し、人々の価値観が変わったことに由来するらしいです。さらにグローバル化とIT化がそこに加わったのも原因だと。
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<br /> 結果、創造力、情報をもった労働者が高い生産性を発揮する一方、従来の年功序列制度に支えられてきた中間層が消え、単純労働を担う人間層が拡大したのだと言及。
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<br /> 一体、どうしたら生きる希望を取り戻せるのか。分かりやすい文章と、人間への暖かな眼差しでもって解説されているのが、垣間見えます。
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<br /> 具体的な分析と提言でもって、誰もが再チャレンジできる新平等社会に向けて、「子供を育てることが、親の将来の希望になるような社会システム」について言及されていた部分が、私には強く印象深かったです。
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