P2Pソフト『Winny』の作者が、著作権法違反の容疑で逮捕され、2006年12月13日に、著作権法違反幇助により罰金150万円を科せられました。被告は、大阪高等裁判所に控訴中です。著者は、「月刊アスキー」の編集者時代の2000年に、P2Pソフトの『グヌーテラ』の記事を書いて以来、このP2P問題に関心を持ち、今回の事件も最初から追ってきたそうです。この事件全体の綿密な調査ドキュメントがあり、全容と問題の核心が分かります。
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<br />本書はそれに終わらず、この事件を手がかりに、PCやITの発展の流れの底には、自由と独立を求める反体制的な考え方があることを歴史を遡って明らかにしています。大型コンピューターが大学や官庁の組織エリートに占有されていた60年代後半に、機械を組織外の個人にも使えるようにタイムシェアリングすべきだとの運動があったそうです。この年代の若者に支持されたヒッピー運動の一環だそうです。その流れを受け継いだITのカウンターカルチャーとしての気概と自負は、著者が本書で訳しているバーロウの1996年の「サイバースパース宣言」に顕著に読み取れます。
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<br />これに対して各国の政府が、非合法なソフトを排除したり、ITと反政府運動との結びつきを恐れて動きを制限したり、国策ソフトを企画して囲い込みを図っている動き。国家同士のITの標準化、覇権をめぐる争い。ヨーロッパなどで厳しく非難されている検索会社と人権を保障しない国家との関係など。今の問題状況が網羅的に書かれています。
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<br />思想的な流れの根を掘り起こしている点が魅力です。自分が触れてきた機械がどういうコンテキストにいたのかが分かり懐かしく読めます。これからネットと世の中はもっと混じり合っていくのでしょう。当初あったロマン溢れる文化の香りをIT側が捨てなければいいなと思いました。
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本書のテーマは、「インターネットやその利用技術はいったい誰の
<br />ものか」ということ。Winnyとその作者の逮捕、裁判の一連の課程を
<br />詳細に取材し、このとても難しいテーマを分かりやすく浮かび上がらせ
<br />てくれる。付けられたタイトルは必ずしも内容に沿って付けられている
<br />わけではない。
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<br /> 関係者の取材、裁判の傍聴を重ね、他方で関連分野の文献などにも
<br />目を向けて事実を集めならがら論をひとつづつ積み重ねていくスタイルが
<br />本書でも健在。一気に引き込まれる。
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この本の帯には「『文明の衝突』をめぐる21世紀最大の戦いが始まった!」という扇情的な惹句。そして、サブタイトルは「誰がウェブ2.0を制するか」。
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<br />佐々木俊尚氏の『グーグル Google』を読んでいた私としては、いやがうえにも期待が膨らんだわけです(内容を確認せずすぐレジへ…)。
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<br />しかし、本書の6〜7割はwinnyと著作権をめぐる問題に割かれていて、期待はずれもいいところです。ちなみに本書の第七章はまるまる80年代の「半導体戦争」について書かれています(「前世紀」の戦いですね)。
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<br />要するに、この本はタイトルと内容との乖離が甚だしいのです。目次をよくチェックしたうえで興味のある方はどうぞ♪