江戸時代に生きた人々は、現代に生きる我々からみれば物質的には決して恵まれてはいなかった。だが、彼らのように高い志をもち、自己を律するという精神的な生き方が現代人にはできるだろうか。ここに登場する人々の清澄な生き方は、本当の豊かさはどこにあるかを考えさせてくれる。
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おそらく蝉しぐれと双璧を為す作品。昨今この手の時代小説を書く小説家はいるが底の浅さに辟易する。似せて書いたところで作者自身の経験に裏打ちされた人生の重みがなければ小説そのものの説得力が生まれないことがわかる、そんなことを考えさせる小説である。あまりに秀逸であるが故に読み手の要求水準を上げてしまうので、続く作家がいない今読むのは危険かもしれない。
人生は長い。本作を読んでいるとそう思う。隠居後の一幕を描いた時代小説だが、清左衛門のように過去を振り返り現在を思うことはどの年代でもあることだ。この老境にしてそうなのだなぁと考えてしまう。<p>後悔、義気、寂寥感などはどの年代でも持つものだ。しかし、その対処の仕方が老境の士ならではだ。老後とは言わず、いまから見習いたい。<p>藤沢作品の多くにある清々しさに満ち溢れている。単純に物語として楽しむことができる。しかし、清左衛門の生き方から学ぶことを感じることができれば、それ以上のものとなる。