靖国問題が世間を騒がせて以降、
<br />昭和の戦争史に関する本を手に取るようになった。
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<br />本書は、昭和20年8月14日午後1時から翌15日正午の玉音放送までを
<br />ドキュメンタリータッチで構成したノンフィクションである。
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<br />終戦の当日、戦争継続派によるクーデターがあった。
<br />クーデターは失敗に終わった。
<br />天皇の玉音放送は、薄氷を踏むような危うさの中で実現した。
<br />8月15日にそんなことがあったと、はじめて知った。
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<br />戦争終結派と戦争継続派の間には、
<br />最後まで相容れない国家感の相違があった。
<br />どちらも命を賭けて国を守るために尽くそうとした。
<br />その攻防、駆け引きは凄まじいまでの迫力である。
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<br />必読といっても過言ではない。
1995年に刊行された『日本のいちばん長い日―運命の八月十五日』(文藝春秋)の文庫版である。単行本は絶版ではないが、手軽に読んでみたい方には文庫版をお薦めしたい。
<br /> 戦後60余年が経つが、現代日本の原点はやはり「昭和20年8月15日」にあると思う。
<br /> 本書は、今まで日本が経験したことがない「敗戦処理」を、どう進めたのか、昭和天皇の「聖断」を受けた鈴木貫太郎内閣の動きを軸に克明に記録した著作である。昭和史の第一人者である著者の代表作だけあって、詳細な筆致に当時の動きが浮かび上がってくるようだ。
<br /> 玉音放送阻止を企てたクーデターに動いた青年将校の動きも、「昭和20年8月15日」の意味をさらに深くさせている。何より阿南惟幾陸相の自刃が、帝国陸軍最後の「道」を示すようで印象深い。
<br /> 先の大戦に対してはいろいろな歴史観があるが、あくまで事実を時系列で記したこの著作は、あまり特定の歴史観に左右されず、読むことができよう。
数時間ずつを時間を区切っての章立てになっており、時系列を追った再現ノンフィ
<br />クションとして読みやすい。
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<br />ポツダム宣言受諾か否かの閣僚・軍首脳の論争に続き、昭和天皇の決意、陸軍将
<br />校たちの反乱、自決する陸軍大臣、玉音放送にまつわる放送局員たち、時間を追っ
<br />て刻々と登場人物が現れる。しかも、これらの登場人物の多くはこの本の執筆時
<br />には存命であり、だからこそ生々しい迫力が伝わってくる。
<br />しかしこれは「回顧録」ではなく、多くの関係者の証言や資料から導かれた、半
<br />藤一利氏による文章としてつづられている。
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<br />日本のターニングポイントを決める24時間前から交わされたとされる指導者たち
<br />、若手将校たちの言葉、考えは切なるものを感じることができる。一方で、この
<br />指導者たちの目に、凄惨な戦争、死はどう映っていたのか、どこか虚しい気にも
<br />なる。
<br />この24時間の間にも、不利を承知で出撃した者、熊谷市等各地への空襲、満州で
<br />の悲惨な撤退戦、多くの人命が失われたはずである。
<br />そして、この24時間の論争、反乱、自決によってまで拘った「国体」とは何だったのか。
<br />この本は我々に直接問いかけることはない。しかし、それを避けて読むことはで
<br />きない、優れた本であると思う。
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