ページを捲ったとたんに、当時のパリに惹き込まれます。
<br />それも、なんと『嗅覚』によって。
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<br />もちろん小説ですから、正確には「文章によって喚起される嗅覚」なのですが、
<br />おびただしい数の『匂い』の描写が、逃れられないほど綿密に、洪水のように供され、
<br />それらに押し流されるように、小説世界に惹き込まれてしまうのです。
<br />
<br />パリジャンという語感とはそぐわない、日常生活に満ちるおぞましい臭気、
<br />人々の体臭、それらをごまかすために流行る香水の馨しさ、
<br />官能をくすぐる娘の体香、それにより煽られる仄暗い情熱…。
<br />
<br />主人公の異質さや狂気をはらんだような行動の理由まで、
<br />すべてが『匂い』に支配されているのに感心しました。
<br />映画化されるとのことなので、そのあたりを映像でどう感じさせてもらえるのか、
<br />そこも楽しみになる小説です。
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<br />★私の購入ポイント★
<br />1)『香水』、『香りによるフェロモン』などに興味があったから。
<br />2)『匂い』をテーマとする、小説と映像の違いに興味があったから。
触覚,視覚,聴覚,味覚,そして嗅覚.これら五感の中で多くの人に最も軽視されるであろう嗅覚がこの物語の核となっている.映像ではなく小説だったからこそ,この物語はグロテスクさを高め,読む者の感情を高ぶらせる.
<br /> 臭いを支配したジャン=バスティド・グルヌイユが本当に作りたかったものは愛の臭い.これが完成したときに物語は静かに,そして残酷に終りを迎える.
クラシカルな技法で現代に「小説」を復活させた
<br />ドイツの作家、パトリック・ズュースキント。
<br />(本書ではジュースキントとなっているが、ドイツ語の
<br />発音としてはズュースキントの方が近いだろう)
<br />本作は氏の代表作であろう。
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<br />『コントラバス』や『鳩』に比べると、
<br />そのロココ的装飾・豪華絢爛さは
<br />とても同じ作家の手によるものとは思えないほどだ。
<br />本家本元の欧州で書かれたこの退廃的耽美的作品は
<br />とても欧州外の作家には望めぬ質の高さを誇る。
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<br />ただこうした世界が好きな人は好きだろうが
<br />そういう読者と、ドイツ文学好き・他のズュースキント作品好きな読者が
<br />用意に並立しないところが、本書の評価の難しいところではある。