正直クックの傑作とはいえないが、いかにも彼らしい作品に仕上がっている。クックの香りが好きな人には傑作の一つに挙げるかも知れないが。鼻梁をくすぐる何かが足りない、というより、作品の構成上のわざとらしさが素直な感情移入の妨げになっているように思える。もちろん彼の作品は単なるミステリーとして読んではならないのだが、人間ドラマとしては主人公が徐々につまらない人間に堕してしまい(息子との関係がそれをやや救っているが)、平板な物語になってしまったのが惜しまれる。とはいえ、巷に氾濫する凡作と比べれば優れた質感を持つのは当然である。クックのようになれば、自分自身の作品がライヴァルとなってしまうのが辛いところである。
「蜘蛛の巣〜」と傾向が似ている作品かと思っていましたが、私はこの緋色の迷宮の方が面白く感じました。<br />スピードをつけて一気に読み上げられます。とてもクックらしく人間が掘り下げられていて時に苦しく、主人公と困惑し、後半はハラハラさせられ結末にはいつも通り驚かされ……。クックで涙したのは2作目です。読んでいる最中、私の周囲はどうだろう。と不安になったものです。彼の作品はいつも人の気持ちが現実的ですが、今回の作品は今の時代にぴったり合っているようで身近に感じました。<br />こう表現してよいか解らないですが、かなり面白い作品です。
クックの作品は、ミステリーとしての骨組みはあくまでも人を描くための道具であり、本当に伝えたいことは人の心なのだと感じます。
<br />本作品についても他の作品と同様、ある出来事がひとつの家族のつながりと信頼、家族であることの確かさをあやうくしていきます。
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<br />家族はたまたまある運命により形成されており、とはいえその状態は血縁や契約により成立されている前提の元に、信頼や愛情、そして甘えや勘違いが常におきていると思います。
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<br />でも、他人であれば勘違いや甘えが許されない世界においても、家族であればそのまま生きていくことも可能です。
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<br />そんな穏やかな生活がある出来事によって、主人公にとっては信頼できず基盤として硬いものではなくなっていきます。
<br />愛する人を信じればこそ、人生は豊かになっていくのにと、哀愁を感じる作品でした。
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<br />ただ、今回の主人公は家族がどう感じているか、どう思っているかを深く考えることなく、自分なりの表現と解釈が多いこともあり、また男性であり父親でもあるといった設定もあり、私にとっては共感性が低い作品であったことも確かです。
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<br />クックの全ての作品がそうであるように、はかない人の気持ちを寂しく感じる後味を残した作品でした。
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