8章「真核細胞の起源」で、細菌の次の段階へのステップは、細胞内共生だったというのには驚く。葉緑体の起源が内部共生するシアノバクテリアであり、ミトコンドリアも別個に仕切られた部分にいて、真核細胞の一部になっている、という。このシアノバクテリアは二酸化炭素を取込み酸素を吐くこで10億年以上かけて酸素を大量に生産して、それまで生きていた大部分の嫌気性バクテリアを一部においやり、酸素によって生きる大型生物の発生を加速させたという、進化の主役のようなバクテリア。
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<br /> p.184の共生による"進化"の図は《自然の姿が「弱肉強食」というより「合併吸収」に思えるような初期の生命進化に対する見方》には新しい知見をもらった感じ。生命の世界というのは、絶対君主が支配するというようなものではなく、委員会のようなものだ、と書いていのだが、深い説得力を感じる。と、同時にカンブリア期の進化の大爆発以降は、《微生物だけでなく動物も、捕食者を避けなければならず、海藻も、食べられないように対処する必要に迫られた。要するに、捕食者の動物が、途方もなく重要な役割を及ぼす環境因子となった》(p.260)というのだから、一筋縄ではいかない。
この本は,Walker: The Snowball Earth(ジャーナリストが書いた)に対抗するかのように,先カンブリア時代専門の古生物学者が書いた初期の生命の入門書である.扱う時期が非常に古いので,日本には対応する地層が全くない.その間に小さい生命体は海を2価の鉄に富むものから鉄を含まないものに変え,大気を窒素と二酸化炭素の混合物から遊離の酸素を含むものに変えた.新原生代中期のスノーボール期を越えると,突然多細胞のかなり大きい動物 (Ediacara 動物群) が出現するが,原生代/古生代境界を境に全然別の生物群に置き換えられる.ここまで話の舞台はすべて海の中である.上陸は古生代の事件なのでこの本では扱われない.この本は,さすが専門家によるものだけあって,スノーボール期の意義についても,Walker の本より遥かに妥当に思われる.訳文は,学問と文学についてはよく調べてあるのに,研究者たちが現場で使う言葉に余りに弱いのが残念である.星一つ減点.
微生物の化石の話である。
<br />恐竜は出てこない。バージェス・モンスターの話は少しだけ出てくる。けれど、大半は微生物の話で埋められている。
<br />けれども、その微生物の話が面白い。個々の微生物の特徴についてはあまり語られず、生命がどのように生まれ、進化してきたかを検証していくのだが、その展開に胸が躍る。惑星そのものの進化について語られ、物理・化学的な解析手法に触れ、フィールドワークで実地に化石を掘り出す体験談が織り交ぜられる。これほど幅の広いジャンルに触れられ、広い視点から語られた微化石の本は他に知らない。最終章ではついに火星の生命にまで触れられ、宇宙生物学にまで話が及ぶ。
<br />古生物関連の本では2005年で一番の収穫ではなかろうか。