2003年、水チャネルの発見によりJohns Hopkins大学のPeter Agreにノーベル化学賞が授与された。彼が、赤血球膜蛋白を調べて行くうちに発見した水を選択的に通す輸送体は水チャネル(アクアポリン)と名付けられ、その類縁蛋白も次々と発見された。原核生物から真核生物に至るまで共通に存在する輸送体として、いかにもその機能が重要であろうと思わせる、そんな膜蛋白である。
<br />脳では、どうか?
<br />それには、既に答がある。ニューロンにはアクアポリンは存在しない。そして、グリアにはアクアポリンが存在する。それが、アクアポリン4である。
<br />脳科学者・中田力は、本書の中で、脳における水の重要性を説く。
<br />脳の環境を保つための安定したバッファーとして。そして、何よりも熱力学的に脳が確率論的自己形成を行うという「渦理論」の担い手として。
<br />彼の「渦理論」には熱対流を起こす媒介が必要であり、それが水である。水のクラスター構造が全身麻酔薬の作用機序にかかわるというポーリングの説を登場させ、そしてアクアポリンの役割を述べている。
<br />中田氏は、脳のグリアが形態学的に示すマトリックス構造は発泡スチロールのような構造であり脳神経を守る緩衝材の役割を果たし、その形成にはグリアのアクアポリンが大切であると主張する。
<br />一方、この世には、脳にアクアポリン4が存在しないマウスも誕生している。驚くべき事に、そのマウスは一見正常に見え、しかも脳虚血を起こさせると、むしろ正常マウスより脳浮腫になりにくい事が報告されている。ともかく、マウスが、寝て、起きて、食事して、日々の暮らしを送るには、アクアポリン4は無くても困ってなさそうに見える。
<br />中田氏が自説を証明するためには、この「アクアポリン4・パラドックス」に対する明確な解答を示さなければならないだろう。
学生時代に使っていた物理化学の教科書(W.J.Moore 4th Edition)にPaulingのこの仮説(1961年)が簡単に触れられていました。
<br />好意的な気持ちで読み返してみたのですが、この説に対する懐疑的な動物実験によるデータ(S.L.Miler等 1969)を紹介をしながらも、結論を下すにはより詳細なさらなる実験が必要と述べていました。
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<br />全くの門外漢である小生には、その後のこの分野での研究の進み具合など毛頭分かりませんが、少なくとも本書では、これらの研究に対する時代による検証状況を少しでも述べられるべきものと思います。
<br />試しに、インターネットで検索してみましたが、現時点でもまだ結論は出てはいないようです。
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<br />純粋な科学論文ではないので目くじらをたてることもないのかもしれませんが、少しでもそういった点についての言及があれば、より良いものになっていたように感じます。
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<br />以上
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この本を読む前まで、意識は脳内のニューロンの回路により形成されていると考えていた。しかし、最新の見識ではまったく誤りであることを知らされ、同時に自身のものの見方、思考の方法を根底から揺るがされる思いもした。
<br /> 科学関係の啓蒙書には無機質なものが多いが、著者の中田氏の幅広い見識には脱帽。ただ、物理とか化学が基礎知識ないとか、論理的思考が苦手な人には、読めない、読んでも理解できない本であると思う。仕方がないか・・・
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