八篇の短編集。
<br />本書は各方面で盛んに絶賛されている。
<br />まず、この宣伝文句を真正面から信じると、
<br />冒頭からがっかりする事になるかも知れない。
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<br />著者のこれまでの作品は、小説ではなく、あくまで「怖い話」だった。
<br />その怖さには凄味があって、単に猟奇的な描写ばかりを行うのではなく、
<br />猟奇性の無い、現在進行形の話には、背筋が凍る思いをしたものだ。
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<br />例えば「東京伝説」シリーズでは、そういう部分が追求されており、
<br />自分がHIVに感染したから、あちこちでばらまいている人物の話や、
<br />ラーメンの隠し味が、実はヒトの胎盤から抽出されたものだったという話など、
<br />猟奇や怪奇よりも、内容を聞くだけでも嫌悪感を覚えたものだ。
<br />しかし、それらはルポ的なもので、小説ではなかった。
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<br />本書は小説だ。
<br />小説に求められるものはいくつもある。
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<br />ホラー小説の中には、登場人物の精神が壊れていて、
<br />奇怪な行動を行って、恐怖感をあおるという、常套手段的手法がある。
<br />本書の前の方に配列されている作品は、その域を出ておらず、平凡な印象を受ける。
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<br />しかし、ちょっと待った!
<br />ここで、この本を置いてはいけない。
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<br />後ろの方まで読み進むに従って、ホラー小説の神髄を見せつけられる様になる。
<br />例えば、表題作は、地図の独白に終始するという珍しい作品だが、
<br />その内容には凄味があって、のめり込んでしまう。
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<br />全部読み終えると、評判どうりの、質の高い作品である事が十二分に分かると思う。
本作は「このミス」で選ばれるまでまったく知らなかった。というか著者も知らなかったのが。
<br />グロテスクな描写ばかりなので、それが好きか嫌いかによって評価は分かれそう。中には星新一のショートショートを思い浮かべるような作品もあった。
<br />本作の評価がどうかというと、人によってはっきり分かれそうなので書きづらいが、個人的には可もなく不可もなくといった感じ。ただ、この本作がなぜ「このミス」で1位になったのかだけは最後までわからなかった。ミステリーという感じはしないんだけどなぁ・・・
切れ味の鋭さが堪能できる傑作選。浅読みの批評には惑わされないで読んでほしい一作。痛々しい世の中の実情を凝縮させての描写はまさに神の域をこえている〜。コレこそ今こそ万人にお薦めできる時。四の五の言わずに読んでみて下さい。