武田信玄は戦国大名として強大な勢力を誇りましたが、後継者の武田勝頼の時代に武田氏は滅亡してしまいました。
<br /> 従来は、偉大な先代の教えを守らなかった武田勝頼に責任がある、という評価が一般的でしたが、本書では、「信玄に7割、勝頼に3割の非」と、後継者対策をおろそかにした信玄の責任を追求しています。
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<br /> 戦国大名の跡継ぎ問題というのは、骨肉の争いに発展します。
<br /> 信玄自身が父の信虎と対立し、クーデターを起こして当主となった過去を持っています。信玄は、後継者として育成していた武田義信とも対立し、幽閉の末、義信を自害させました。
<br /> しかたなく、母方の姓を名乗っていた側室の子、諏訪勝頼を武田勝頼と改名させましたが、権限委譲が不完全だったため、勝頼は古参幹部に囲まれてつらい立場にたたされました。
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<br /> 自分の存在感を増そうとして、勝頼は信玄の遺言に背いて外征に打って出るようになり、長篠の合戦で大敗を喫してしまいます。長篠の合戦の7年後、家臣の裏切り、逃亡の末、とうとう勝頼、長男信勝が自刃し、武田家は滅亡しました。
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<br /> 著者は信玄の犯した失敗を5箇条にわたって指摘します。
<br /> 他にも、「継がせる側のための十の教訓」、「継ぐ側のための十の教訓」など、武田家の悲劇から数々の教訓をすくいあげ、中小企業経営者が心すべき戒めとして提示しています。
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<br /> 内容もさることながら、私が感心したのは、本書が「事業承継塾」講座の実況中継として書かれていることです。
<br /> 長篠の古戦場跡地で開講したこの講座は、なんと、講師に武田家の筆頭家臣だった山県昌景を招きました。
<br /> 「拙者が山県昌景だ」と講師が登場したときには、つい笑っちゃいましたが、武田信玄、勝頼の相克を証言するには、これほどの適任者はいません。
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<br /> 読み物として工夫してあり、最後まで興味深く読むことができました。
<br /> 歴史好きの方にもお薦めです。
「武田家をつぶしたのは無能な後継者勝頼」
<br />この定説を覆す筆者の主張は、
<br />「武田家をつぶしたのは信玄の継承策の失敗」
<br />一理は認められるが、少々斜に構えて見えるこの異説を、
<br />経営コンサルタントの北見氏は丁寧な時代考証を時系列順に提示しながら、
<br />現代にも通じる表現で説得力のある解説を加えていく。
<br />中でも、北条、今川、伊達、織田、上杉の家督継承策との比較は、
<br />大変興味深いものである。
<br />そして結局、
<br />「事業継承は、継ぐ側よりも、継がせる側の方に問題がある場合が多い」
<br />という筆者の主張に、すっかりうなずかされてしまう。
<br />事業継承を課題として認識される経営関係の方々、
<br />または歴史好きの方々、そしてその両方の方に特におすすめである。
事業継承問題は、今年の中小企業白書のテーマにもあるように中小企業にとっては重要な問題となりつつあります。この本は、武田家という歴史から数々の教訓をわかりやすく解説している点がすばらしい。但し、現代の失敗事例も合わせて載せているが、歴史の教訓と必ずしも合わないのが残念でした。