元来,にとって正しい解釈というのはあるのだろうか.国語の問題ではあるまいし「このとき作者は何を考えていたか」などと問いを考える必要は無い.読み方は自由だ.ましてや村上春樹のような作家の小説に解析など野暮なだけではないか?
<br /> このように考えていたがこの本はそれなりに楽しませてくれる.書いてあることにはそれなりの整合性があり,かつ通常では気がつかないようなところまで教えてくれる.全てに同意するかどうかはともかく,ひとつの物語の解釈としては楽しませてくれる本だ.
村上春樹の作品は、一部ファンタジーものを除き、どれも読み易く。
<br />ついついサラリと読み流してしまいがちだった。暇つぶしに読み返す
<br />事はあっても、読後あらためて考え込んだりする事は無かった。
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<br />そんな僕にとって本書の読解は、新鮮な驚きを与えてくれた。
<br />とくに親友「鼠ねずみ」の存在に迫るあたりは…。
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<br />第一巻の本書は『風の歌〜』『ピンボール』『羊をめぐる〜』
<br />『世界の終わり〜』79〜85年までの4作を読解している。それぞれ
<br />作品ごとの独立した個別評論というよりも、横断的に個々の作品を
<br />つなげて論じている。だからこの4作以外にも『ノルウェイ〜』の
<br />直子の言及とかも関連して度々でてくる。総合的な分析といえる。
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<br />作者は大学にゼミを持つ教授で、どうやら複数の書き手がいるみたい。
<br />短文コラムが所々に出てくる。学生たちの共同作業をまとめた様だ。
<br />途中で村上龍がポップアートについて語る文章が引用されたり。
<br />コッポラ『地獄の黙示録』との関連を書いたり。タイムテーブルを
<br />作って、時系列に分析してみたり。あの配電盤の暗示は?とか春樹作品
<br />における音楽レコードの役割は?とか結構本格的に分析してる。
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<br />確かに少し難しい所もあるが、全体的にカラフルな内容だ。
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<br />巻末解説者の竹田氏は、作者の同僚で、ハイデガーなどの著作をもつ
<br />哲学者だ。なのでけっこう本格的な学者が書いた読解本となっている。
<br />軽いエッセー・ガイドブック的なノリは無い。
<br />PS●本作者・加藤典洋の『日本の無思想』は、タテマエとホンネの言及が、面白かった。