病床の父を見守りながら記憶を辿る日々、他界後、父の遺した俳句をもとに一冊の句集を編む日々が綴られた作品。
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<br />「無名の人生」を送ってきた父とはどんな人だったのだろう? 沢木氏と父の他人行儀ともとれる一風かわった関係は何に端を発しているのだろう?
<br />読者は衰えゆく父に胸を痛めつつも、その謎に迫りたいと心をはやらせる。しかし、謎の解明は、おそらく父の死を意味する。ふと我に返り、そのことに後ろめたさを感じる時があった。
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<br />だが沢木氏の文章は、後ろめたさが最小限になるよう配慮しているかのように、静かで、情に流されず、時にユーモラスともとれる表現で重しをとりのぞいてくれている。まるで、彼が父を「守らなくてはならない人」と感じていたのと同様、読者をも守ってくれているかのようだ。だから安心して、無名の父の軌跡を辿り、また寄り添う家族の光景を見つめていただきたいと思う。びっくりするような謎が隠されているわけではないけれど・・・
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<br />父の他界後、沢木氏は句集を編集し始める。一句一句丹念に読むことで父と向き合い、句集を編むことで故人を弔うという過程がとても知的だ。知的ではことば足らずか。心が介在する知的な営みとでも言ったらいいか・・・ ともあれ、この父子にとってこれ以上の弔いの形はないだろうと思った。
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<br />来るべき日、逝く人と見送る者の両者にとって一番ふさわしい供養を選び、やりとげるなどということが果たして自分にできるだろうか。そんなことを考えた。
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里帰りをして手持ち無沙汰をもてあまして、何気なく、手に取った一冊です。
<br /> 軽めの推理小説に食傷気味だったので、とても気持ちよく読めました。等身大の親子の関係。親父は59歳で15年前に逝ったがお袋は健在。東京の日常の生活に戻ったが、お袋がいる幸せを少しづつ、改めて認識している。
命を終えようとする父。その父を看病しながら、また介護しながら、
<br />息子は自分の中の父を見つめなおす。そして父との会話を思い出す。
<br />何気ない会話だけれど、そこに交わされる言葉の一つ一つが心にしみて
<br />くる。父は無名のままでの死を願う。息子は父の句集を出すことで、
<br />父の名を残そうとする。どちらの思いも分かるような気がする。生と
<br />死、親と子。だれでも生きていくうえで考えなければならないことだ。
<br />この作品で、ひとつの答えを見たような気がした。
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