日本の宇宙開発において、旧科技庁系NASDAと旧文部省系宇宙研の違いを理解している人がどれくらいいるのだろうか。
<br />かく言う私も、数年前まではその理解は全く無かった。
<br />ビッグサイエンス全盛の近年の科学技術開発の中で、スモールサイエンスの流れを汲む宇宙研の研究スタンスは、
<br />世界的に見ても注目すべきものである。
<br />少ない予算だからこそ出てくるアイディアの塊のような宇宙研の衛星、ロケット
<br />本書を読んで是非その一端に触れてほしい。
<br />火星探査衛星のぞみを描いた「恐るべき旅路」も併読すべき一書である。
本書は、人類初の「小惑星への離着陸」を成功させた我が国の科学技術の精華
<br />「はやぶさ」と、それを作った宇宙研(ISAS)の歴史を、コンパクトにまとめた
<br />見事な作品である。実際、これまで我が国の宇宙開発に対して特別の関心が無
<br />かった私のような者でも、その語り口の丁寧さに、引き込まれるように読み進
<br />めることが出来た。本書に理科の知識は無用である。
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<br />ところが、「はやぶさ」が小惑星の表面物質採取に成功したか否かが現状では
<br />不明であり、さらに帰還が非常に困難な状況にあることにつけ込んだアメリカ
<br />が、一発逆転に賭けて全く同種のプロジェクトを立ち上げた。その名を「オシ
<br />リス」というらしい。予算規模は「はやぶさ」の4倍以上である。
<br />こうした成果の強引な横取りを阻止し、独自の宇宙開発をこれからも続けて、
<br />科学技術の礎を担い、青少年に夢を与え、他国に振り回されるだけの脇役に転
<br />落しないように、二代目の計画「はやぶさ2」が現在、宇宙研にて検討されて
<br />いるが、誠に残念ながらこの世界の歴史に残る偉業の継続に対して、適切な予
<br />算がつかないらしいのである。
<br />それは一にも二にも「はやぶさ」計画が納税者たる国民に広く知られていない
<br />からに違いない。そして政府、政治家、官僚その他、予算決定に影響力を持っ
<br />た人達が、自国の誇るべき偉業にまるで関心が無いからに違いない。そうした
<br />現状を打破するために著者は本書を書かれたのだと思う。「はやぶさ2」を実
<br />現させる遠回りではあるが確実な方法として、私は本書を友人に勧めることか
<br />ら始めた。このような著作が仮にベストセラーになったなら、それは国の中枢
<br />に位置する人々も、知らぬ存ぜぬでは済まないだろうと思ったからである。
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宇宙機「はやぶさ」が、小惑星イトカワにタッチダウンして日本中(いや世界中)を感動させてからほぼ1年。はやぶさはいまだ地球帰還に向けて奮闘中だが、本書では離着陸成功後、はやぶさとの通信が回復するところまでを扱っている。やや文章が古臭いが、情熱がほとばしるよい本だ。
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<br />もっとも筆者も認めるように内容はかなり一般向けで、その上半分以上が「宇宙研の歴史」なので、はやぶさに関する記述はそれほど多くないし、新しいネタが書かれているわけでもない。はやぶさファン/マニアには物足りないかも知れないが、そういう人は(おそらく5年後の帰還に合わせて出る)より詳しい書籍を待つべきだろう。はやぶさのことをそろそろ世間が忘れかけているこの時期に、こういう本が出るのは大事なことだと思う。
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<br />で、冒頭からさっそくタッチダウンの話なので、人前で読むのはヤバいです。泣けるので。
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