ナチスの迫害から逃れて、日本軍占領下の上海で避難生活を余儀なくされた約2万のユダヤ人が存在したことを本書で初めて知った。
<br /> 10歳で祖国ドイツを離れざるをえなかった少女とその一家を取り巻く上海の環境は、「東洋のスラムで肥溜め(こえだめ)」といわれ、想像を絶するほど劣悪だった。それでも彼女は持ち前の明るさで多くの友を得て、苦難を克服し、たくましく生き抜く。
<br /> 主人公の少女は、半世紀前の著者自身である。現在、米国在住の彼女は友人や家族に請われ、1939年5月から47年8月までの記録を残すことにした。
<br /> 移り住んで数年後、彼らはドイツの国籍を剥奪され、日本軍の「軍事上の要請により」、約2万人のユダヤ人は狭い「指定地域」に追いやられる。環境は苛酷の一途をたどる。さらに貧困に拍車がかかり、日本人将校の愛人になる少女も現れた。主人公は、自分たちを迫害するナチスから解放されるためにアメリカの勝利を願う。一方で、原爆投下で辛酸をなめる敵国日本人に向ける優しい眼差しが印象的だ。
<br /> 戦争が終わり、念願のアメリカへ移住する主人公が「誰のことも憎まない。どの集団のことも。どの人のことも」と、真情を吐露する。テロと報復の連鎖を繰り返す現代の国際情勢を直視すれば、この誓いには感動を禁じえない。日本人はナチスのユダヤ人大量虐殺の出来事を知っているが、日本がナチスと同盟を組み犯した罪を見落としてはいないか。それゆえに彼女の証言は重みを増す。
<br /> 改めて平和の尊さを考えさせる好著だ。訳文もこなれていて大変に読みやすい。一読をおすすめしたい。
<br />
大学の先生に薦められて読み始めました。
<br />稚拙な文体ですが、中身はリアリティーの塊で、時に私たち日本人に厳しくも感じる部位さえあります。アンネの日記のユダヤ版といえばそこまでなのですが、それでも、単なる歴史モノというカテゴリーなのではなく、どんなに苦しくとも、「誰も恨まない、誰も憎まない」と決意をする明るく強くある姿が美しいと感じられます。自殺列島といわれる疲弊した日本の社会に、いま求められているのは、差別や迫害に打ち勝つ、強い心なのではないでしょうか。そう感じさせてくれる良い本だと思います。毎日新聞でこの本の感想を募集しているということも知りました。どんな人がこの世の中で、この本を手にされているのか、興味もあります。