日本でもっとも古い時期から認知言語学的研究を進められ、最近ではEゲイト辞典やNHK英会話番組でなどで一般的にも認知されるようになった田中先生の著作。
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<br /> これまでの英語学、英語教育において、形式的な文法記述や、一対一の訳語による暗記を強いられてきた"have"などのもろもろの言語事象について、「コア」や「チャンク」理論を用いて、一元的に「目からウロコの落ちる」説明をなし、英語教育への貢献を試みる。
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<br /> さらにいっそうの研鑽を踏まえ、これまでの伝統文法や学校文法の蓄積をより体系的に、このような認知言語学的に説明した英文法書の登場が期待される。
英文法の本は限りなくあるが,学校文法の本ではご都合主義の説明が目につく。すっきり説明されているなと思うと,例外がたくさん出てきたり,前の説明と矛盾することが書かれていたりする。破綻のない,合理的に説明された英文法が表れることをずっと望んでいた。また,自分でもどうすれば合理的に英文法が説明できるか考えてきた。本書では前半を語彙と文法に関してコア理論に基づき説明し,後半はチャンク理論についてその運用について説明している。特に前半では,こうすれば合理的に説明がつくはずだろうと個人的に思ってきたことを,明快に合理的にまとめてくれている。例えば,完了相で用いるhaveの説明は以前から個人的にも思っていたことがズバリ書かれている。haveのコアが理解できると,完了相のhaveが一般動詞のhaveと変わらない,品詞の枠にはめないhaveという一つの語としてとらえられることが分かる。本書で書かれていることをベースにした総合的な英文法書が書かれることを期待したい。
従来単語の様々な意味や文法を暗記しなければならなかったが、本書ではその対策として、コア図式やチャンクを用いた有効的な指導法が説明されている。「指導法」とタイトルにあるように、本書は教える立場の人、例えば高校の先生やこれから教える立場を目指している大学生に適していると思われる。そのため高校生にとっては少し難しいでしょう(自信のある高校生はチャレンジを!)。『Eゲイト英和辞典』などと内容が一部重複するため評価を4つ星にしたが、まだコア図式を知らない人にはとても有効である。またこのコア図式であるが、一部で誤解されているようであるが、そのことについて本書の中で説明(反論)している点も興味深かった。
<br />本書と内容が(個人的に)似ていると思われるのは、『ハートで感じる英文法』『ハートで感じる英文法(会話偏)』(NHK出版)である。本書も『ハート〜』も暗記ではなくイメージを大切にしている点が共通している。しかし本書と『ハート〜』の違いは、本書の方が少し専門的な点である。本書は何人かの言語学者の名があげられ、その論文の引用が少しある。それに対し『ハート〜』の方は、説明がもう少し噛み砕いて書かれている。読者のレベルによっては、『ハート〜』は簡単すぎると思われるかもしれない。そんな人は本書を手にとって、より専門的な説明、実践的指導法を読んでみては如何だろうか。本書を読めば、コア図式の大切さを感じることになるでしょう。