最初に著者が説明しているが、戦後復員してまもなく描いた絵(昭和24~26年)、昭和60年に「娘に語るお父さんの戦記・絵本版」のために描いた絵、終戦と同時に移動したトーマという所で描いたスケッチの絵の3つの部分から構成されている。絵の何枚かは色づけしてあって美しい。最後にアルバムとして写真が載っている。<p>ラバウルで水木さんら初年兵も含めた兵隊がどんな生活をしていたかがわかる貴重な資料。のんびりしているようで、空襲があったりワニに人が食われたり、危険が背中合わせだったりする。水木さん御自身が戦地で片腕をなくす重傷を負いながら、全体として「ゆったり」した安心感のようなものを受けるのはやはり水木さんの性格・考え方によるのでしょう。救われます。
漫画ではなく,ほとんどのページは上半分が絵、その下半分がその絵の水木先生の解説となっている.この解説がとてもおもしろく,他のレビュアーの方も仰っているが,引き込まれる一気に読めてしまう.不思議な本だ.<br>これは「水木マジック」と呼ぶべきものかもしれない。<br>同先生の戦記作品「総員玉砕せよっ!」と舞台は同じだが,あちらは若干の脚色がある.こちらは全く真実のみだそうだ.戦争の無意味さが迫る様に伝わってくるのは両作品とも同じだが,私はこちらの「ラバウル戦記」はそれより,水木氏のタフさに畏敬の念を覚えた.絶望的な状況でも決して絶望しない精神力.片腕を失ってもそれにめげる事無く回りの自然に目を輝かせスケッチせずにはおれぬ活力,生命力,芸術家としての魂の叫び.<br>特に最後の「トーマの日々」の章で使用されている,実際に当時,現地でわら半紙にスケッチしたという絵の素晴らしさは恐れ入るばかりである.<br>この本を読むと,自分も含め,現代人はなんとせせこましい事で悩んでいる事だろうか?水木先生の芸術の源泉は~もちろん才能もあるだろうが~何よりそのタフな精神力があってこそではないかと思った.そして,いまやそういう人は少なく成りつつある...お金ができたらハードカバー製本の方を買い直して座右の書籍としたいと思った.素晴らしい一冊だ。
「はじめに」「ラバウル戦記その1」「ラバウル戦記その2」「ラバウル戦記その3」「トーマの日々」「ラバウルとの別れ」「おわりに」「アルバム」で構成されています。<p>作者は復員後の昭和24年から26年ごろ、「ラバウル戦記」という題名で連作の絵を描いていました。この作業は経済的な事情から今日まで途絶していたのですが、バイエン守備隊の敗走から終戦までを『娘に語るお父さんの戦記』から再利用し、トーマの捕虜収容所時代に写生した作品をくわえて今回、一冊の本にまとめられました。いわば作者のマボロシの作品が人目を見たことは一ファンとしても大変うれしい出来事です。<p>実際に見た「ラバウル戦記」は鉛筆によるマンガ風の絵だったので拍子抜けだったかもしれません。しかし遠近法といった技術と無縁であることがかえって、「描きたい」という筆者の気持ちが伝わってきます。<p>一方、トーマという収容所で描いた30枚ばかりのデッサンの出来ばえはすばらしく、作者が画家を目指したことも肯けます。<p>「ラバウル戦記その3」は『お父さんの戦記』の絵27点(点描がすばらしい出来栄え)とともに「最前線」「丘の上」「土人部落」「別れ」の文章を、文体を変えて収録しています。本文で一部意味が通りにくい個所があるのは、文章の一部を省略しているためです(たとえばなぜ、フンドシをのばして海を泳いだのかなど。これは『お父さんの戦記』を読めばその理由がわかります)。