現在、目にする法隆寺は聖徳太子創建のものではなく、再建(新創建)されたものであることは昭和14年の発掘調査の結果から明らかになっている。新創建の法隆寺がいつ、誰により何の目的で建てられたのか? 日本書紀は黙して語らず、ここに様々な仮説が立てられている。武澤氏は建築学の専門家であり、最近明らかになった法隆寺の五重塔と金堂の建設木材伐採年のデータなどを駆使して伽藍造営の経緯を明らかにしていく。
<br />そして嘗て「怨霊説」の根拠とされた中門の真ん中に立つ柱について別の合理的な解釈の可能性を示す。さらには我が国の中央集権国家建設のなかでの仏教文化受容の面にまで進む。これで『法隆寺の謎』が全て解決されたわけではなく、謎がさらなる謎を呼ぶ面もあるが、知的好奇心を刺激する良質な論考である。文章はよく練れていて読みやすい。
<br />法隆寺、そして日本史のなかで特にダイナミックなこの時代に関心のある人に是非お薦めしたい。
本書の著者は歴史家でなく建築家である。さらに、仏教のふるさと・インドを何度も訪れ宗教建築を踏査している。そうしたことを通して培われた著者の感性を土台にして法隆寺の謎に迫っていることが、本書の特徴である。門の中央の柱、伽藍配置、創建法隆寺と新生法隆寺の関係、などの謎へのアプローチは、まさにこの著者ならではと言えるだろう。だからと言って資料をおろそかにしているわけではない。当時の資料を読みこなしつつ、それらで足りない部分を建築家の感性で補っているのだが、これは下手な歴史家の屁理屈よりも大きな説得力を持っている。
法隆寺の門のど真ん中に柱がある。なんで?
<br />このあまりにキャッチーな問いに一説を投じている。
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<br />たまに「筆が滑ってんじゃないのか」と指摘したくなるような推理の飛躍もあるが、まぁ、読み物としておもしろいし、証拠の少なさは他の説も変わらんのでオッケー。
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<br />不満なのは、図や絵、写真が少なくて、文章の内容がいまいち映像化しにくいこと。でも、これ読んで法隆寺に行って見る人、多いだろうなー。