<br /> 私自身は…「環境主義(ないしエコロジズム)と結びついた社会民主主義」という理念が、これからの時代においていわば“時代の政治哲学”という位置を担い、日本におけるこの理念と政策の確立こそがもっとも重要な課題になると考えている―本書P.76
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<br /> 当書を貫く主旋律は、上述の「エコロジズムと結びついた社会民主主義」の思想である。だが、この意想は、政治哲学としての社会民主主義の中に自由主義的な要素を取り入れ、本来の意味での保守主義にも親和性をもつ“新たな社会民主主義”であることが特徴だ。
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<br /> 従って、具体的には、著者がコンセプトとして主張する「持続可能な福祉社会」を構築するため、「定常(環境)志向&(相対的に)大きな政府」という姿、米欧の対比でみれば「ヨーロッパ型」に重なるような、オルタナティブな社会モデルを私たちに提起する。
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<br /> 「持続可能な福祉社会」とは、「個人の生活保障や分配の公正が十分実現されつつ、それが環境・資源制約とも両立しながら長期にわたって存続できるような社会」と定義されている。私たちの目指す「美しい国」とは、まさにこうした社会を基盤とすべきであろう。
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千葉大学の21世紀COEプログラム「持続可能な福祉社会に向けての公共研究」の研究成果の一部の公刊本ということで、骨太なアカデミックな議論が展開されている。新たな知見を開くとはこのようなことか、と目を開かされる。
<br />見えない社会保障が崩れたという現状分析は今日の共通認識となっているが、そこから描かれる社会像は著者独自のものである。「人生前半の社会保障」というコンセプトの提示から始まって、環境政策と福祉政策の融合、都市型社会におけるコミュニティの再生等の必要性が論理的に説明され、具体的な政策提言が語られる。政策自体に既視観が無いわけではないが、それらを前著から引き続く「定常型社会」というコンセプトの下に縦横自在に展開する著者の知的世界に引き込まれる。
<br />最終章、超時間軸という概念を提示しつつ、生産の充足が文化の進化に発展したという歴史的事実を提示する著者の歴史観に、知識や学問さえも消費の対象となりつつある今日の社会の不健全に改めて思い至った。
新書と侮るなかれ。半端ではない学術書で、役人から学者に転じた著者の過去10年の仕事の集大成のような本として読みました。OECDデーターから我が国の福祉は高齢者偏重・育児/教育/雇用冷遇である姿を明らかにして、「持続可能な福祉社会」を論じています。長所としては、新たな福祉観を随所に盛り込み、「後期子ども」(30歳位までの教育・就労要支援者)という概念を提唱したり、「定常型社会」という右肩上がりの成長社会からの脱皮モデルを提唱したり、非常に刺激的でかつ論理的です。また、福祉から医療まで幅広く社会保障問題を論じている力作です。しかし、反面それが短所となり、理屈っぽい、分かりにくい、くどいといった印象を持つ面もあります。専門書を読む覚悟で取り組めば☆4つ。ただし、お手軽にその課題の理解を深めたいと希望する新書ラバーにとっては敷居が高いと思われます。 私個人にとっては、大いに参考となり、反復して読みたい本となりました。