本書は、決して色物ではない。しかし、著者は色物視されることを恐れては居ない。
<br /> 人は、往々にして自分の現在地点の狭い視野から、世界を物事の仕組みを見がちな傾向を持つ。全体像を解明し、背景を形作るシステムを解明する努力をせずに。
<br /> このシステムの解明に著者は、経済学の思考方法を薦める。
<br /> 最適の資源配分の道筋を考える経済学。人間の行動を解明するツールとしての経済学。
<br /> その経済学の効用を、大相撲・プロ棋士の世界や、伝統仏教の寺院、家元制度の生き残りのために作り上げたシステムの解明を通して読者に示し、読者を経済学への接近へと誘う。
<br /> そして更に、社会が「弱者」とする存在に著者の経済学のメスを入れ、思考実験を行う。
<br /> 表層的なマスコミ報道をなぞるだけの論議や床屋政談に厭きた貴方にお勧めする一冊です。
経済学はもともと人間社会の「なぜ?」を探求、解明する学問である。
<br />しかし、数学や理論や専門用語に満ちていて、一般には敷居が高いイメージがある。
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<br />そこで本書は、経済学はもっと身近なのだ、経済学的視点を使えば社会のしくみがスッキリわかるのだ、ということを示すため、一見経済とは全く縁のなさそうな文化や伝統、宗教、弱者保護を取り上げ、経済学の原理を使って「なぜ?」の説明を試みている。
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<br />本書は理論や専門用語を排除しているが、使われている経済学の原理=解剖道具はおおよそ次の3点である。
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<br /> 1.人間は自己の欲望を満たすように行動する。
<br /> 2.人間は無駄を避け、利得を最大にするよう行動する。
<br /> 3.人間の生産活動は、需要と供給のバランスに支配される。
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<br />経済学的視点での社会のありようを理解するということと、社会をあるべき理想の姿へもっていこう、ということは本来動機が別であるが、たいていの類書では前者よりも後者が強く前にでてくる。しかし本書は意識的に前者の立場で書かれている。そこが新しい。
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<br />経済学も歴史学や社会学や哲学と同じ人間と社会を理解する方法論のひとつなのだ、ということをあらためて認識した。
<br />これはあたり!である。
本書の中で一番印象に残ったのが伝統文化の生き残りについて書かれた部分。これこそは通常の経済学ではありえない参入障壁というものがあり、それによって相撲や将棋等の世界の伝統が守られているらしい。また、この参入障害があるからこそ力士独特の体型等も守られている。
<br />そしてこれらの伝統文化もマーケティングが必要であると著者は力説する。たとえば両国国技館で相撲は行われるが、両国駅から国技館までの間に歴史を感じさせる建物や資料館が少ない。国技館そのものも余り伝統を感じさせる装飾が施されているとは言い難い。その点ヨーロッパは徹底的に伝統のマーケティングが進んでいる。少子化が進み労働人口が減少する日本は今後観光立国として外貨を稼ぐことも視野に入れるべき時期に来ていると思うので、私は著者の意見に非常に共感が持てた。