読書とは危険なものである。書物は読者の独善をたしなめてはくれない。しかも、世の中には、
<br />正確な言葉の定義も、主張を裏付けるデータもなく、比喩と例え話で構成され、受け入れられ
<br />やすい言葉で飾られただけの本も多い。それがベストセラーになることも珍しくない。
<br />だからこそ、読書力の向上が必要となる。
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<br />本書では、そのようなダメ議論(書物)に気付くための5つの技術が述べられている。
<br />読後、1ヶ月ほど前に読んだ「国家の品格」を読み直した。最初に読んだときの不快感の
<br />原因が、本書で提示されている5つの技術によって、炙り出され非常にすっきりした。
<br />情報過多の時代だからこそ、読む価値のある本である。
世の中にはびこる議論。
<br />その多くは主観やある価値観を前提にした
<br />結論ありきの「常識」という名の素朴な感情論。
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<br />そのいかにも論理の体裁をした、不毛な論理・議論を見抜くための本。
<br />感情のカタルシスより、有用な解決策を模索するための視点5つが述べられていて面白い。
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<br />蛇足だけど、
<br />「気持ちは分かるけど悲惨な結果になるよ」と思い続けて議論していただろう
<br />同い年の真っ当な経済学者の自分の議論、
<br />その態度への静かで高らかな宣言でもあるこの本に
<br />日本経済の未来へ少し希望を感じる。
メディア言説に対するリテラシーの必要性、論理思考に関する新しい指摘や観点はとくになく、
<br />アリストテレス以来の虚偽論でおなじみの論理的矛盾の域を出ないと思われるが、恐らくこの
<br />著者は経済学者であって論理学の虚偽論を学んだとは思えないことから、独力でここまで曖昧な
<br />議論の論難を整理し得たその分析力と作業努力は買いたいと感じた。
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<br />とりわけ本著の中心は筆者が挙げている議論のリテラシーにとって必要な以下の
<br />「5つのチェックポイント」である。
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<br />1.定義の誤解・失敗はないか 2.無内容または反証不可能な言説
<br />3.難解な理論の不安定な結論 4.単純なデータ観察で否定されないか
<br />5.比喩と例話に支えられた主張
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<br />(念のため以上のうち、
<br /> 1.は虚偽論で「先決問題要求の虚偽 petitio principii」
<br /> 2.は同じく「語彙曖昧の虚偽 fallacia equivocatio」
<br /> 3.は「不当理由の虚偽 fallacia propter non causam」
<br /> 4.は「一般化の虚偽」もしくは「論証不足の虚偽 non sequitur」
<br /> 5.は「比喩の虚偽 fallacia figura dictionis」と呼ばれるものに相当する。)
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<br />以上の他にも著者は、日本人同士の議論によく見られる、
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<br />*『真の幸福』論法:「真の〜は」「本当の〜は」という表現による批判
<br />*虚無論法:「それがすべて正しいというわけではない」という反論
<br />*通常は〜である、〜するのが自然だ、という一般化による反論
<br />*属人論法:「〜に属していない(経験のない)人間に何がわかる」「自分は〜のくせに」という批判
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<br />といった「まやかし論法」の例を挙げるなど、ユニークさで読者の的を射ることに成功している。
<br />筆者の挙げている「ダメな議論」のいずれもが典型的な新聞の社説風の文章を題材にしている
<br />だけに、普段新聞紙面の論評を有難く読んでいる読者にとってはまさに苦笑ものといえよう。