先にこの『英文翻訳術』*1を読み、続いて著者の『英語の発想』*2を読みました。私はまだ翻訳の経験を積んでいる最中ですが、この2冊のおかげで、どうやって訳すべきか悩んでいた箇所がすんなりと訳せるようになってきたと思います(*2は、*1で不足していた「日英語の発想の相違を、対照言語学的なアプローチを取りこ」むという作業が行われています。「 」内は*2 文庫版あとがき より)。<p> 先に何名かの方が指摘しておられますが、文庫版で値段も手ごろですので、翻訳を仕事にしていらっしゃる方だけでなく、翻訳を勉強中の方にもお薦めです。
受験英語では、構文や語彙の意味をとれていることを明確に示すためにあえて直訳(逐語訳)を書くことが要求されることも少なくないが、その受験でかたまってしまった直訳癖を解消するにはよい本であり、それが評価されるのも頷ける。しかし、私がこの本を大学ではじめて目にした折、さして新しい発見をできなかったという事実からも見て取れるように、ここで取り扱われているような訳出法は、実は伊藤和夫氏(「長文読解教室」の『私の訳出法』)や多田正行氏(「思考訓練の場としての英文解釈」の『名詞化構文の解析』)などの受験参考書で既に多かれ少なかれ解説されているものばかりなのである。ゆえに、この本が大好評を博すというのは、いかに多くの人が受験参考書をリミットまで活用していないかを指し示す一つの証拠とも言え、少し複雑である。また、付け加えとなるが、この本で扱われているようなものが果たして翻訳のための『訳出法』の結果生まれる訳なのか、英語がわかっていれば自然に出てくるはずの訳なのかは簡単には言い切れない部分があるだろう。安西氏は、英文解釈と翻訳を明確に区別しておられるようだが、少なくとも本書で扱われているレベルの例文を訳す際にその二つにそれほどの差異を認めるべきではない、という立場があってもよいのではないか。
翻訳の仕方で迷ったことのある人には、とても参考になる本です。さまざまな訳例に安西さんがコメントをつけながら、より良い達意の訳文にするコツを手ほどきしています。<br>実際、翻訳のときに行き当たった問題に対しての指針をこの本で見つけることができました。文庫版であり入手もしやすいのでお勧めしたい本です。