ヒズボラとイスラエルがやっと停戦した。
<br />しかし今度はイランとイスラエルの衝突が取りざたされている。
<br />なぜ中東には戦争が絶えないのか。
<br />さかのぼれば、12世紀の十字軍遠征にその元凶があるという。
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<br />新聞の日曜面に書評があったので、
<br />昨今の中東情勢について興味があったことも手伝って
<br />手にとって見た。
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<br />著者のアミン・マアルーフ氏はレバノン在住の著名なジャーナリスト。
<br />日本でいえば朝日や読売の社説を書くような立場の人らしい。
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<br />1096年のフランク軍(=十字軍)来襲から1291年の完全撃退まで、
<br />約200年間にわたってアラブ世界とヨーロッパとの戦いがあった。
<br />本書はその200年を物語風に描いた「史談」である。
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<br />物語としての面白さと、歴史としての重厚さのバランスが適当で、
<br />500ページ近い大部であるが、ちっとも飽きさせない。
<br />まるで小説でも読むように、一気に読んでしまった。
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<br />11世紀末から13世紀末といえば、日本では平安から鎌倉へ、
<br />公家から武家への政権交代が起きようとしていた時期である。
<br />現代の日本にその当時の対立の影響が残っているとはとても思えないが、
<br />アラブ地域の現在の紛争は、たしかに1000年前の紛争と地続きである。
<br />アラブの歴史は未だに「歴史」ではなく「今」なのである。
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<br />ムスリムといっても一枚岩ではない。
<br />アラブ、トルコ、イランの三民族の間の抗争がある。
<br />加えてヨーロッパの軍事介入が事態をさらに複雑にさせる。
<br />現代ではそこにアメリカも加わった。
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<br />アラブ世界の難しさを民族感情レベルで理解できる好著である。
非常に素晴らしい名著でした。十字軍の歴史書というよりは、中世における地中海世界の政治社会の分析という感じです。著者はレバノン出身です。<p>日本の学校教育での『世界史』は、欧州ナショナリズムに基づく偏ったものです。文明はギリシア・ローマに始まって欧州が継承したのであり、欧州が世界の中心として人類の歴史が発展したものだと・・・。<p>実際は、地中海世界のギリシア・ローマ文明の継承者は、ビザンツとアラブであり、中世の先進国も彼ら(と独自の文明史を持つ中国)でした。当時の欧州は野蛮な後進国だったことがわかります。<p>本書の特徴は、まさに十字軍の舞台であった中東の視点で現地レポートされていること。先進国であったアラブ世界での政治抗争がアラブの視点で描かれています。<p>絶頂期にあったアラブが、その担い手をトルコやクルドに委ねていくこと。野蛮な欧州がアラブから先進文明を学び取った反面、アラブは欧州の近代化を学ぼうとしなかったこと。「西は東から学んだが、東は西から学ぼうとしなかった。」アラブの視点で、アラブを自己評価する結論も非常に尊いと思います。<p>日本は近代化に成功して、欧米列強に肩を並べました。一方で、アジアの大国は、欧米列強の植民地化を受けた結果に・・・。この著書は、アラブだけでなくアジアにも深い示唆を与えていると感じました。一方で、日本は欧州ナショナリズムに毒されるのではなく、もう一度自分たちの目で世界史を見直す必要があるでしょう。
本書はアラブ世界の視点で十字軍の侵攻から後の反攻、<br>さらにサラディンという歴史的英雄の登場を活写しているわけだが、<br>これらの推移をふまえつつ現代アラブ世界と欧米諸国の<br>対立が抱える問題にまで挑戦的に言及しているのは興味深い。<p>高校の世界史の教科書では、ほんの数ページ、<br>それもヨーロッパ側の見方でしかない内容だった十字軍史が、<br>アラブ側から見ることにより、より多面的に、立体的に<br>当時の人々が何を考えていたのかがよくわかる。<p>もともとハードカバーで売られていたものだけに、ページ数と値段は結構なボリュームだが、<br>手に入れる事も至難だった時期を考えれば非常にありがたい。<br>しかも単なる歴史の羅列を記したものではなく、物語としての表現も軽妙かつ秀逸なので<br>ちょっと普通の歴史小説は飽きた……という人は大いにのめり込むだろう。<p>大学で史学を専攻したいと思っている高校生にぜひ薦めたい作品だ。<p>ちなみに本書は知る人ぞ知る有名なファンタジー小説、<br>「アルスラーン戦記」の参考資料にも使われており、<br>ファンなら登場する固有名詞にニヤリとする事も多々ある。