著者の著作の魅力は、当時の権力者から末端の関係者までを含む膨大な
<br />当事者達の「声」をベースにして、いかに歴史の実相を描き出すかにあ
<br />ると思います。
<br />単純な指導者批判や讃美、あるいは現在の基準で大上段に過去を総括し
<br />て裁くようなことは注意深くさけられています(ところどころ個人的な
<br />思いがあふれる箇所もありますが・・・)。
<br />冷静に今に歴史を教訓として生かすために、東條英機の苦悩に迫ること
<br />で彼を指導者としてかかえることになった日本の政治的、組織的、精神
<br />的背景や状況が、証言やメモを確認しながら掘り起こされ考察されてゆ
<br />きます。東條自身の苦悩がひしひしと伝わる名著です。
<br />公や組織の中で状況と相対する形でしか個人にとっての歴史が現前する
<br />場はないというごく当たり前の原則をふまえ、できる限りその状況に迫
<br />ろうとする著者の態度にすなおに共感できます。
<br />会社等でこれから人の上に立とうする若いリーダーさんにもおすすめし
<br />たい。
日本がなぜ戦争に至り、敗戦したのか、非情に綿密な取材により、正に歴史の紐を解くかのごとく書かれています。そこには、血の通った、苦悩する一国の指導者”東條英機”がリアルに描かれており、左派の方に言わせると「美化しすぎだ」と言われるのかもしれません。ただ、私にはそうは思えなかった。ここに書かれていることが事実なのだと思えた。靖国神社問題などで、戦前の日本に興味を持たれた方に是非とも読んで欲しい本です。
この本は単なる東條英機伝ではない。太平洋戦争、そして大日本帝国を語る上で重要な歴史資料である。東條英機という人物をとおして彼が生きた当時の政治状況、軍部の実態などが詳細に描かれている。
<br /> その中で興味深かったのが、当時の日本の軍隊は長州出身者を中心とした軍閥にすぎず、有力者の死によって長州閥が衰退したあとも軍閥としての性格は基本的に変わらなかったということである。陸・海相の現役武官任命制を原則化し、政治の側からの軍部介入を拒否したことで、逆に軍部による政治支配を招いて戦争の道に足を踏み入れることになったのは、日本にとって悲劇的なことである。
<br /> このことからわかることは、軍隊というのは国家権力のなかにあって単なる武力集団でしかなく、国民の安全と利益を守る集団とみなすには文民統制(シビリアンコントロール)が機能していなければならない、ということである。近年、東條英機を擁護する論調が出てきていて著者もそのことをしきりに危惧しているが、そのようなことは近代日本の欠陥を容認することであり、国民に対して無責任なことである。たしかに大日本帝国を清算する使命を負わされたということについては気の毒だったと思えるが、そのことで彼が行ったことが正当化される根拠はどこにもないのである。
<br /> 折りしもタイで軍事クーデターが起こった。彼ら(軍部)が果たしてタイの人びとの安全を保障しうるものであるか、語らずとも答えは出ている。