日本人ピアニストによる6人のピアニスト譚であるから興味深い。個人的に交友のあったピアニストらを書いているから悪く言えば主観的。だが、彼らとの交流無しに、ここまで寄り添った内容は書けなかったに違いない。
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<br />君はピアノが好きじゃないね、と言われ、『私は音楽の方が好きなんです』と答えるリヒテル。
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<br />飾られていた花から出る湿気が楽器に影響するから撤去せよ、というミケランジェリ。
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<br />膨大な記録をもとに、詳細なリサーチを重ねた後がうかがえるそれぞれの逸話が、個性を持ってキラリと輝く。
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<br />何よりも圧巻なのは、それぞれのピアニストの奏でる音や、演奏時の精神状態の描写。「すべてを掴み取って内側に叩き込んでいくような」「演奏という時間の流れを通して美と並走している」など、ピアニストであるからこそ文字で立体的に表現できるのであるのかもしれない。
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<br />個性が強く、バックグラウンドや生い立ち、音楽に対する考え方がユニークで、面白かった。それぞれが抱く、音楽に対する情熱が、彼らの生き様に反映されて様様な人生をたどっているのが興味深い。
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<br />巻末にはそれぞれのピアニストのお勧めCDリスト付き。
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<br />ピアノを習っていない人でも伝記物として楽しめる。ステージピアニストの横顔を知り、天才と呼ばれる人々苦悩が感じられる一冊。
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ピアニストがピアニストを分析した興味深い本。音楽関連の雑誌でとり上げられ、話題になっている。選ばれた演奏家はいずれも個性的かつ高名な6人であり、各々が主に演奏家心理の面、および演奏の技術論の面から、つまり通常の評論家ではアプローチできない側面から論じられる。ときに紋切り型表現があって気になるが、文章は明快で、読みやすい。また、記述はおおむね時系列に沿っており、資料としても使いやすい。<p>切り口の新しさと議論の明快さは特筆でき(星座による性格規定は同意できないものの)、クラシックのピアノ音楽に興味を持つ人なら必ず楽しめるだろうと思う。「トンデモ演奏家」に分類されかねないハイドシェックについての文章は私の認識を新たにしたので、(おそらく不当に)安く売られているベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集をそのうち入手して聴く予定。宇和島ライヴだけで偏見を持っていたから、もう一度まじめに聴いてみたい。また医師としては、彼を襲った1997年の左上肢の故障が気になる。湿布を出した医師の見立ては誤診と思われる(診断がつかずに苦し紛れの処方だろうと思うし、たぶん神経内科医の診察ではないだろう)。<p><p>本書は推薦である。
大作曲家が碌な死に方をしない例が多すぎるので,私はかねて音楽の女神が実は魔神なのでは,と疑っていた.本書を見れば,演奏家も随分ひどい目に会っていることがよく判る.そもそも音楽なる業はまともで安全なのだろうか,ミューズは実はネメシスなのではないか,とまで疑われる(音楽にはある恐ろしさがあることは,アルフレート アインシュタインの持論であった).リフテルとかアルヘリチのような大家がピアノを弾くこと自身を恐れると言うのは怖ろしいことではないか(この本はこの二人について特に面白い).著者の師バルビゼは温厚な人物だったせいかこの種の呪いを免れたが,パートナーのヴァイオリニストは逃れられなかった.私はバルビゼとエイドシエクを知らないので,本書に言及のあるフランスEMI盤をamazon.frから取り寄せ,目下感心して聞いている.