第1部は速読批判。
<br />否定するのはいいのですが、なぜ速読がダメなのか、その理由の1つ1つが狭隘かつ主観的な
<br />決めつけで強引な感じが否めません。いっそ「自分たち小説家は一字一字精魂こめて書いて
<br />いるんだ、だから軽く流し読みされるのは御免だ」と主張した方が良かったのでは。
<br />
<br />第2部はスロー・リーディング テクニック編。
<br />序文に「スロー・リーディングとは差がつく読書術だ。……内容の理解がグンと増すような
<br />いくつかの秘訣をまとめたのが本書である」とありますが、そういうことであれば私は
<br />「本を読む本」をお勧めします。この本はその「いくつかの秘訣」―― 傍線を引くとか、
<br />なぜと問いかけながら読むとか、複数の本を比較するなど ―― をすべて含んだ上で更に
<br />深い示唆を与えてくれます。
<br />(ちなみに「本を読む本」の原題は「How to read a book」=「本の読み方」)
<br />
<br />第3部は実践編で、いくつかの古典や名作の抜粋を紹介しながら実際に読み解いていきます。
<br />TVゲームに「やりこみ」という分野がありますが、この章での分析や精緻な読解には
<br />ここまで読み取れるものかと素直に驚嘆しました。
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まずこの本は使い方次第によってかなり重宝できること。それは再読に著者が重点を置いています。そして欠点は何でも再読、スローリーディングをせよということ。
<br />これは誰にでもわかりますけど、現代人には速読、多読も必要なわけでして、何もかもこの方式には当てはまらない。
<br />著者は文中に「出張帰りの間際、観光名所へ2、3時間行くことと1週間滞在してその土地をじっくり見て回るのは後者が勝る」と書いていますが、これは正論だけども現実的ではない。
<br />やはり出張帰り間際に数時間見て回ることしかできないこともあります。
<br />結論から言うと時間的にたっぷり余裕のある場合しか使えない読書法ということになります。
第1部では、速読と対比することで、スローリーディングの魅力を語っている(そのためか速読法については、コテンパンにこき下ろしている)。
<br /> 第2部では、スローリーディングのおおまかなテクニックを説明している。ここでおおまかなと書いたのは、文章を精読しようと思ったら、誰でも多かれ少なかれやるようなことであり、特に目新しいことが書かれているわけではないからだ。テクニック的なことだけなら、遠い昔に使った大学受験の国語の参考書が詳しかったし、一般書なら、光文社新書の「わかったつもり 読解力がつかない本当の原因」のほうがずっとお勧めである。
<br /> 第3部は、実践編で、夏目漱石「こころ」、森鴎外「高瀬舟」などの名作から、金原ひとみ「蛇にピアス」や筆者自身の「葬送」といった比較的最近の作品を題材にして、筆者が、実際にスローリーディングしてみせているのだが、これが大変すばらしい。
<br /> 以前に読んでいるはず、知っているはずの作品なのだが、こんな読み方があるのか、ここまで深く読めるのかと、まさに目からウロコであった。早速、夏目漱石の「こころ」を読み返したくなって、すぐに購入し、現在、自分なりにスローリーディングしているところである。
<br /> いくつか欠点もあるが、そんな気にしてくれたこの本に感謝。