前作に引き続き、講義形式なので、内容的に巻き気味にはなるのですが、それでも最低限おさえるべきところはおさえているので、昭和史の読みやすい教科書として前著と同じくお奨めできます。
<br />また、半藤氏は同時代を生きた人であるので、学術的な歴史本にない、オーラルヒストリー的な「なまの歴史」の魅力を持っているところが本書の良いところだと思います。
<br />具体的には、降伏後、GHQが進駐する前までの東久邇宮内閣の「無反省」ぶりや、8月20日〜25日にかけて国民生活が劇的に変わったこと、DDTとペニシリンの摂取によって、アメリカと日本の国力の違いを思い知ったこと、闇市の誕生の経緯、ラジオ放送「真相はこうだ」をどう聞いたかなど、政治史とは無関係でも庶民の生活実感が伝わるエピソードが多く興味深いです。
<br />いっぽうで重要なエピソードをすっとばしていたりもするので、私が気づいた中では、公職追放と財閥解体、農地解放の3つは重要施策にもかかわらず、ちょっと触れている程度なので---まあ、話としてあまり面白くないということなのでしょうが---別の本で勉強してみると戦後史がより立体的に理解できると思います。
<br />さて、本書の中で明らかな誤りを2箇所見つけたので、訂正しておきます。
<br />1つ目は、山口判事が餓死した事件で、「遺書」を引用していますが、これは新聞記者が捏造したものであることがほぼ判明しています。(礫川全次『戦後ニッポン犯罪史』を参照)
<br />2つ目は、東京裁判で、ソ連検事団の申し入れにより、真崎・阿部を外して梅津・重光を入れるという「被告の入れ替え」がされたとありますが、これは児島襄『東京裁判』の誤りをそのまま引用しているものです。(粟屋憲太郎『東京裁判への道 下』を参照)
太平洋戦争の後から高度経済成長の頃までの内容です。
<br />特に、戦後処理の時代に重きを置いており、約半分ぐらいは昭和20年代の話となっています。
<br />筆者の体験談や取材話も盛り込まれており、現実味がある内容と鳴っています。
<br />これを読むと、その頃の国民がどのように感じながら生活していたのかというのが分かるような気がします。
<br />ひとつだけ残念なのが、昭和45年以降についてはほとんど記述がないということです。
<br />「昭和」という時代を生きてきた人間が、それを歴史として振り返るにはかなりいい本だと思います。
実際には1972年までのお話。それ以降は「現代史でまだ評価が定まっていない」からとかなんとか理由をつけて多くを語らず。
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<br />それ以前の話にしても、結局は半藤氏の視点を通して語られる以上「色」がついていることに変わりありません。この際「浮世のしがらみ」を無視して、もっと語って欲しかったです。その分星1つ減点です。
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<br />半藤さん、今年でもう76歳ですよ。現役でいられる時間も長くありません。(失礼!)何を話しても/書いても、あなたに文句言う人は誰もいないと思います。
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<br />いずれにせよ、一読の価値はあります。