「平穏無事なくらしにめぐまれている者にとっては思い浮かべることさえむつかしいかも知れないが、世の中には、毎朝目がさめるとその目ざめるということがおそろしくてたまらないひとがあちこちにいる。」これは本書の冒頭部分である。一度でもこのような思いをしたことのある人、現在このような思いを抱いて生きている人などに是非読んでもらいたい。
<br /> 最終章で筆者はこう言っている「人間の存在意義は、その利用価値や有用性によるものではない。野に咲く花のように、ただ無償に存在しているひとも、大きな立場からみたら存在理由があるにちがいない。」
<br /> 本書は自分の存在価値を認められず苦しんでいる人々の救いになる一冊ではないかと思う。
<br />
現在出版されている「生きがい」に関して書かれた著書のほとんどが、この本を参考文献としてあげていることからもわかるように、著者は「生きがい」の研究に真っ向から取り組んだ草分け的存在であると思われます。<br> 日本語における「生きがい」という言葉のニュアンスを包括する他言語が存在しないという点に着目し、「生きがい」という言葉の意味を深く掘り下げることからスタートし、特殊な限界状況におかれた人たち(ハンセン病患者、死刑囚、戦没学生など)の精神世界を、豊富な知識、深い思索、慈愛に満ちた眼差しで描き出していきます。私たちが日常生活を送る上では、むしろ邪魔になるような、極度に精神化した世界がそこに開されていきます。<br> 彼女自身は外交官の娘で、クリスチャンであったと記憶しておりますが、青年期に結核を患い、療養のためひきこもって読書にふけり、苦労して精神科医となった後も、重病を患いながら病気の子どもを育て、仕事と家庭を両立した、まさにスーパーウーマンです。したがって、彼女の紡ぎ出す言葉には言い知れぬ説得力と重みが感じられます。
読後、神谷美恵子さん本人と対話したくなる気持ちが湧き出てくる本だと思います。<br> 巻末に載っている日記や生きがいを喪った人の心の世界の、自分に経験がなくとも何とも言えない恐怖を感じてしまう文章を読んでいると神谷さん自信も似たような悩み苦しんだ経験をしてきたと感じられるからです。<br> この本は苦しみから逃れるための方法などは述べられていません。苦しみと向き合いながら生きていくための本だと言えます。この点で一般の啓蒙本とは違って力強いです。興味があったら是非一度読んでみてください。