バブル崩壊後の日本は厳しい経営環境が続き、エレクトロニクス産業は、商品開発リードタイムと開発コストの半減化を目指すと同時に、ビジネスチャンスに合わせタイムリーな市場開拓と商品ライフサイクルの加速化を展開してきた。
<br />当時、エレクトロニクス産業各社では、速く(高速化→リードタイムの短縮化)、正確に(高精度化→高品質、高品位化)、安く(低コスト化→高競争力化、市場の独占化)をモットーとし企業ミッションとしたために、高効率な開発体制を構築し、最速にキャッシュが得られる優先的採択といったことで、知恵を絞り必死になって奔走したものである。
<br />その結果が、今となっては、コモディティ化と直結するのでよろしくないと言われるのは大変残念なことである。
<br />当時、本書の著者とは面会させていただき、日本のエレクトロニクス産業におけるデジタルエンジニアリングに対して活発な動きをしていることで、その素晴らしさを共有し熱く語り合ったものでした。
<br />特に強い反論ではないが、早くて安くて高品質といった商品の開発効率を考えるとコモディティ化がやはりベストな手法であり、コモディティ化により、海外への技術の流出については避けられないものである。
<br />技術流出は当面の回避はされていてもいずれは流出するものであるとも考えられる。自然淘汰かもしれない。
<br />本書の著者陣は学者さんであるため、エレクトロニクス産業に関して研究してきた成果を学術的に論述しており、論点が分類・整理されており明確である。
<br />日本の未来を展望するには本書を一読し、デジタルエンジニアリングの歴史をレビューすること。そして次期ステップに向けて、知恵を出し合い新しい展開を育むべきことと思う。
書籍の狙いは『何故,日本の先端技術産業は収益が上がらないのか?』である.執筆者はそうそうたるメンバー(国内経営学では有名どころばかりが集まっている?)で,デジタル家電(光ディスク,HDD,フラットテレビ,半導体など)を具体的な題材とし,コモディティ化に際して価値獲得に失敗した原因を考察している.
<br /> つい先日(2005/12/10)に出版されている,榊原慶応大学教授の『イノベーションの収益化(有斐閣)』から更に一歩前進した,ルネサンスプロジェクトの研究成果をまとめた形での記述になっている.
<br /> 結論として,継続的・持続的な成功のためには,市場開拓初期から成熟期に至るまで,成長に挑む経営の強い意志と,それを支える知識とスキルがこれまで以上に必要である,と締めくくっている.
<br /> 先端製品といえども必ずマス・ボリュームゾーンに移行するので,これまでのように作れば売れる時代には逆戻りできない.ここで台湾・韓国・中国に勝ち残って行くには,相当の知恵と努力が必要になることは言うに及ばないことではあるが,これを再認識する上で,参考になる一冊と言える.
「イノベーションを収益に結びつけるとはどういうことか」
<br />「コモディティ化が発生する条件やプロセスは?」
<br />こういった疑問に、的確に、かつ豊富な事例を用いて答える。
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<br />例えば、HDD産業分析が面白い。
<br />イノベーションに重要な人材・技術獲得という視点から「立地」に注目し、アジア市場を分析した。
<br />その「産業クラスター」概念は、マイケル・ポーターの『国の競争優位』以上に動的で、具体的に聞こえる。
<br />さらにクリステンセンの「イノベーターのジレンマ」仮説では説明のつかないシーゲートの競争優位や日本企業の収益低迷にも解説を加える。
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<br />そのほか、薄型テレビやDVDレコーダーといったデジタル家電、光ディスクや半導体など日本企業が技術面で先導したにも関わらず必ずしも競争優位と収益獲得に至ってない分野への調査も充実しており、魅力的なケース分析となっている。
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<br />一方で、本書でも紹介されたデルの事例がある。
<br />コモディティ化をむしろ「強み」に変えたデルの戦略を本書の立場ではどう解釈するのか、私はさらに知りたい。
<br />そういった興味を誘うほど、「イノベーションと競争優位」の関係を整理できた点からも、本書の価値は高いと考える。