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| 硫黄島戦記―玉砕の島から生還した一兵士の回想
(
川相 昌一
)
本書は一兵士の手記「鎮魂の島 硫黄島」が一般向けに初めて出版されたものである。
<br /> 生還した者の多くが戦後は堅く口を閉ざして当時のことを語らない中、よくぞこのように書き残してくれたと思う。玉砕の戦場、最後の抗戦までは語れても、捕虜の汚名などについてはほとんど触れられない場合が多い。
<br /> 著者は昭和45年硫黄島遺骨調査に参加して以来、慰霊と遺骨収集に20回以上参加している。この手記を書いたのは、昭和55年頃と言う。共に戦って逝った戦友と、その遺族のためにも書き残すべきだと考えてのことだった。
<br /> 硫黄島戦記は他にいろいろあっても、それはそれ、これはこれで、それぞれ貴重な体験記として尊重しなければならないと思う。戦後61年を過ぎ、ほとんど生還者は戦記を出さなくなってきた今、こうした営為に敬意を払わねばなるまい。「何を今更」という見方は酷い。
<br /> 作家でも評論家でもない、普通の人である。それだけに、事実を淡々と飾り気ない文章でヴィヴィッドに戦闘状況を綴っている。空想で書いた戦記物でもなく、価値判断を下した評論などではない。また、よくあることとして一般化した朧化表現もない。還ってみれば妻は戦死したものと思い、弟と結婚していたこともきちんと述べている。
<br />「戦争中のことは墓場まで持っていけ」とも言われて久しいが、今ここに至って、この「誠意ある証言」が、戦争の実態を知る貴重な資料ともなり、更には「鎮魂の書」となることを念じてやまない。
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