本書は様々なネットワーク理論を判り易く解説しています。
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<br />代表的なネットワーク理論の一つひとつについての概要、効用と限界を
<br />丁寧に解説すると共に、数式を使っての解析をしています。
<br />数学が苦手な人にとってありがたいことに、読まなくてもいい範囲を提示してくれています。
<br />また、特定のネットワーク理論を過剰に擁護することなく、冷静に比較していることも好感が持てます。
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<br />更に、ネットワーク理論は未だ完成しておらず、
<br />今後の研究開発により解決すべき課題が多いということを正直に認めているところも誠実だと思います。
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<br />あとは、なんといっても参考文献が豊富に掲載されていることが本書の価値を高めています。
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<br />ネットワーク理論を初めて学ぼうとされる方は、
<br />著者の「複雑ネットワークとは何か」の後に本書を読まれることをお薦めします。
<br />ワッツとバラバシは本書を読まれて概要を掴んだ後の方が、理解が一層深まるような気がします。
<br /> 本書を手に取ったのは、同じ著者らによる『「複雑ネットワーク」とは何か』(以下「新書」と表現)が非常に面白かったからである。読む前は、本書を一般読者向けに書き直したものが新書なのではないかと思っていたが、そういうわけではなかった。ポイントのおきかたも違うし、執筆の際の狙いも異なるのだと思う。以下では、新書との比較という観点から、本書についての感想を記す。
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<br /> 新書の目的が複雑ネットワークという概念そのものの紹介にあったのに対して、本書では、主要なネットワークモデル(スモールワールドモデル、BAモデル、階層的モデル、閾値モデル、等)の性質(平均頂点間距離、クラスター係数、スケールフリー性、ネットワーク構造の規則性、等の諸側面)の解説に重点をおいている。特に、これらのモデルの数理的性質について考えたり、そこから何かを演繹する際に、実際にどうやって考えるのか、その実例を示す、という点に力を注いでいるように感じた。そのため、新書では数式は一切登場しなかったのに対して、本書では、数式を用いた具体的な記述がしばしば登場する。これは、ある意味、授業を受けているような感じで、ネットワークの科学を専門としない読者で自分で考えてみたいという人には有難い。(ただし、数式の出てくる節を読み飛ばしても続きを理解できるように配慮されているので、数式を苦手とする読者も安心である。)主要なモデルの解説の後に、パーコレーション、コンタクトプロセス、連合振動子などのトピックも取り上げられている。巻末には、日本語で書かれた図書・論文(翻訳を含む)60程度を含む、145の参考図書のリストが掲載されており、独学の助けになる。文章は、新書と比べるとやや読みづらく感じたが、新書の文章が信じ難いほど読みやすかったということかもしれない。
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<br /> 読む順番としては、新書を読んだ後に読むのがよいのではないかと思う。
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これまでのネットワーク研究の理論の流れを初学者にもわかりやすく解説している。数式は出てくるが、必ずしも数式を理解しなくても読ことができるように書かれている。数式も大学理系程度の数学力があれば理解することはそれほど困難ではない。また、この本は参考文献が充実しており、興味を持った読者がさらに学ぶ機会を手助けしてくれる。紹介されているいくつかの有名なレビュー論文を読めばさらに広い知見を得ることができるでしょう。ネットワークを研究しようと思う初学者が最初に読むのにふさわしいのではないでしょうか。