ここまで幅広く世界を捉え、ここまで多様な学問的知見を動員し、
<br />ここまで深く原因を究明しながら人類史を探求した書籍は他にはあまりないと思います。
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<br />また、人類史の探求にここまで自然科学を駆使した歴史書も他にはあまりないと思います。
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<br />本書を要約すれば、
<br />「地理的な差異が様々な文明の、発生の有無、発生時期、発展速度、衝突を決める」
<br />ということになります。
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<br />但し、ここまで進化理論を駆使しながら人類の進化の差異(優劣ではない)には全く触れていません。
<br />アフリカから各大陸へ人類は移動してきましたが、
<br />どのような状況でどのような集団が移動したのかによっても因果は変わってくるでしょう。
<br />(当時の局所的・一時的な強者と弱者のどちらが移動したのか、など)
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<br />また、エピローグでも述べられているように、文化そのものの多様性の因果、には全く触れていません。
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<br />更に、日本についての記述に触れるたびに違和感を覚えることから、
<br />他の地域や民族の記述について、当事者が違和感を覚えるのではないか、という懸念も出てきます。
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<br />とはいえ、地理的な要因だけで、ここまで説明しきれる説を展開したこと自体が偉業だと思いますので、★5つです。
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<br />インカ皇帝は何故ピサロ率いるたった168人のスペイン部隊に敗れてしまったのか。また、そもそも何故、アメリカ大陸を征服したのは旧大陸(ユーラシア大陸)のヨーロッパ人で、その逆ではなかったのか。オーストラリア原住民のアボリジニは何故石器時代から抜け出せなかったのか。アフリカは人類発祥の地であるにも関わらず何故暗黒大陸に陥ってしまったのか。
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<br />これらは歴史を勉強した人は誰でも感じたことがある疑問だろう。そして一般的な結論は白色人種がその他の人種より優秀だからといった人種間の優位性に落ち着くことが多い。正直言って自分の中にもモンゴロイドは手先が器用で頭もいいといった先入観があるのは事実だ。
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<br />しかしながら本書では文明発展の決定要素は人種ではなく環境だと結論付ける。文明が最も発展したユーラシア大陸とその他の3大陸における、人間の食料となる植物、家畜となる大型動物の分布状況の差と、東西に広がるユーラシア大陸と南北に広がるアフリカ・アメリカ大陸の地相が、文明の発展にいかに決定的な影響を与えたのかを、豊富な事例を用いて判りやすく説明してくれる。
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<br />約400頁の本書には人類の歴史に関して、中学・高校の教科書では習った記憶ことがない情報がこれでもかと詰め込まれている。例えばタイトルのGERMS(病原菌)とは何を意味するのかと疑問であったが、文明の発展と病原菌が密接に関係していると知って驚いた。
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<br />普段はこの手のアカデミックな本は滅多に読まないが、本書に関しては読後に知識欲が満たされた充実感があり、大ヒットな一冊であった。
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鳥類の研究者であったダイヤモンドはまた真の知識人でもあった。
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<br />ユーラシア大陸では家畜となるような動物が多く、それの飼育によってユーラシア人はまた病原菌耐性も獲得した。さらにイネ科の植物はユーラシアに多かったために、東西に長いユーラシアでは急速に農耕が普及した。
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<br />これらの理由から文明はユーラシアで圧倒的に進歩し、ヨーロッパ人は南北アメリカやアフリカ大陸、オーストラリアを支配することになったのだという。
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<br />私は彼のウルム氷期以降の1300年の人類の歴史を再構築する科学的な試みに完全に脱帽した。かつてこのような人類史を書いた学者は一人としていないのだ!!
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<br />無理やり文句をつけるとするなら、ダイヤモンドはあまりにも人間の平等にこだわっているようである。人間集団に差異があったとしても、彼の鋭い洞察のほとんどは全くその意義を失わないはずだ。