センセーショナルな題名から、よくある感情的反中論かと思わせるが、まったく逆。英国の高級経済紙フィナンシャルタイムズ北京支局長による極めてしっかりした中国論である。著者が、中国(人)のみならず世界各国を直に取材して得たミクロ面、古今東西の経済、政治、社会に通じた知識からくるマクロ面を混ぜ合わせながら、中国台頭がもたらした現状、今後の見込みについて書いている。今後の展開については、まず米国との対立が不可避との見方を示す一方、中国の実利主義が結局は決定的対立を回避さすのではとの両方を示唆して終わっている。世界的な規模で生じている中国台頭の影響・行方について、考えさせられる第1級の、そして最先端の中国論といえる。
随分ショッキングなタイトルだが原題はもっと穏やかでChina Shakes the Worldだ。「中国を眠らせておくべし。目覚めた中国は世界を揺さぶる」というナポレオン三世の警句からの引用だ。本書の論点もここにある。
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<br />現在中国がもっとも重視する問題は人と仕事のバランスだ。これは毛沢東が人口増加に踏み切った結果、毎年2400万人分の雇用を生み出す必要にせまられているからだ。9-10%の経済成長率を維持しても、まだ数百万人分が足りない。雇用を重視する必要があるのは依然社会不安があるからだろう。このため中国は遮二無二成長するしかない。国内の公害にも目をつぶり、エネルギー資源も反米諸国と平気で手を結ぶ。ヨーロッパも中国の影響で苦難を味わっている。その結果現在の真の問題は、世界が中国の上昇をどこまで許すかだとしている。そして本書は「中国はいまや世界にぴったり寄り添い、組織に入って条約を結び、他国へ依存しているゆえに、恩を仇で返すことはできないのではなかろうか」と結んでいる。
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<br />中国の人口と成長のスピードを考えると、中国脅威論が出るのは当たり前と言える。従って「もう勝手に振舞えない」も良く判る。また限られた地球資源・公害などを考えると、逆に中国が、他国・環境へ「積極的に」気を配らないと、地球規模の悲劇が起こるとの感を強くした。これは我々先発の既得権を守る為ではなく、地球そのものを守る為だ。中国の影響はそれ程大きいと思われる。またこれが大国中国の生き残る道だろう。そうでないと本書指摘の如く、中国はその巨大さ故に自らを滅ぼすだろう。
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<br />やはり和訳タイトル「中国は世界をムチャクチャにする」は妥当だ。本書は是非中国の指導者にも読んでほしい1冊だ。
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<br /> もし、マルクスが今世紀、「資本論」の続編を書こうとするならば、現代中国をその対象とするような気がしてならない。さらに、本書を読んだ上で付け加えるならば、中国は人類史上“最悪の資本主義国家”になっていくだろう、ということだ。そして、世界を不幸にしている“グローバル資本主義”とは、多国籍企業や国際金融資本のみの原理ではなく、「企業国家・中国」(同書)を支えるイデオロギーでもあるらしい…。
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